対 話 - 野 原 –

Apple創業者スティーブ・ジョブズは、あるスピーチで以下のように語ります。



「未来に先回りして点と点をつなげることはできない。できるのは過去を振り返って繋げることだけで、その点と点がいつか何らかのかたちでつながると信じなければならない」。



自分の心の声に正直に従って生きている人――主に自然布や革を使い鞄やお財布などの暮らしの道具、布や植物を使い、装身具を制作している「野 原」の佐藤健司さんの学生時代からいまに至るまでの経緯を伺うと、人生とはそのことの連続なんだと実感します。

色という存在を強く認識した出来事

佐藤さんのものづくりへのきっかけは、中学生や高校生の頃にファッションに興味を持ち、古着をリメイクしていたことといいます。高校を卒業後、都内にある服飾の専門学校に進学。ものが含まれている時間の重みに惹きつけられ、古着でもヨーロッパのヴィンテージ服を主に解体していくようになります。

在学中にイギリスに住む友人元へ訪れ、ロンドン市内にある洋服屋で見かけた藍染の洋服との出会いが今後の人生を決める出来事へ。

佐藤 : その藍色ははじめて色という存在を強く認識した色でもあります。言葉でうまく表現できないけど、どこから湧いてくるのかわからない安心感みたいなものに包まれたように感じました。

モノが少ない事の豊かさ

草木染めで染められた藍色の洋服のブランドは「ARTS&SCIENCE」。卒業後、ものづくりを学ぼうと「ARTS&SCIENCE」に就職します。進んだ部門は革部門。プロトタイプを作って手を動かし、それをディレクターへ提案し、職人さんとものを作り始める。会社にいながらも経験を補おうと、様々なことを勉強していた時期といいます。

2年間勤めた後、全て縫いで制作するバッグと財布のブランドとして独立。様々な出来事が積み重なり、ある時期に「突発性難聴」が発生します。

佐藤 : 振り返ると、生活の為に制作していたりなど、そういった部分が本質的には我慢できなかったんだと思います。病気が発生した頃に、前職から声がかかり、自分のものづくりは辞め、仕事だけに集中しようと切り替えました。一度全てをクリアにするため、当時はSNSも一切辞めました。ある日、友達がキャンプに連れて行ってくれて、森の中で焚き火をして、そのときに自分がリラックスしていることがわかりました。何でいままでこういった時間を過ごしてこなかったのかなと。それまでは、モノがある生活をしていたから、モノが少ない事がなんて豊かなことだと気付かされました。何かと比較して自分を蔑んでいた時期もあり、そういった事で心が弱まり辛い時でしたけど、大事な時間ではありましたね。

勤務時は突き詰めてものづくりを行い、休日は山や海など自然に触れ合あう機会を多くすることにより、ものづくりが冴えてきたといいます。瞑想や自然の中でリラックスすることにより、自分が癒やされるバランスを見つけ、好きなもののルーツと向き合う日々が続きます。ある時期に出会った人からの一声が、会社を辞めてものづくりを再始動するきっかけへ。

佐藤 : 『佐藤さんが作るものだったら何でもいいから持ちたい。あなたがつくったものを世の中に流してほしい』。自分自身を感じてモノを欲してくれる人と出会うようになり、それが支えになり、またものづくりをしていこうと決意しました。

インスピレーションを受ける旅

退職後は、友人とタイ・インド・ラオスへ旅に向かいます。タイとインドではお寺でゆっくり過ごし、ラオスでは自分達が使うために生地を織り、その土地の草木を使って染めを施す部族の営みに触れ合う。

ものづくりに影響を与えてくれる人との出会いや毎日作りたいものが浮かび、インスピレーションを受ける旅だったと振り返ります。

佐藤 : ある日のラオスでの夜に、友人が書いた星の物語を読んでいると、目の前に広がる星々を刺繍したいと感じました。その思いを元に針を進めていくと星々の集いのような刺繍になったんです。出来事や思いを形にしていくことに歓びを感じるきっかけになった出来事でした。“ひと”が自然の一部だから、旅や日常でも自然から得るものが大きいです。どんなものも形は自然に湧いてくる声を聞いて、流れに任せています。いまは革や生えている植物に触れる度に、「こうしたい」といままでの引き出しが素直にでてくるので、受注という形ではなく作品展として発表しています。

東京から長野へ

「野 原」という名前はさとうさんの奥さんの名前で、野原から連想するイメージも好きだからというのが由来です。

「ものつくることは、自分にとって癒やしでもある」と話すように、ものづくりをする日々の中、神奈川県の里山で草木の営みを教えてくれる人との出会いもあり、草木染めに没頭します。

佐藤 : 草木染めは自由で、こうしなさいといった決まり事は少ないです。草木は見た目の色合いがそのまま映ることはなく、草木の成分が、何かを媒体して布に色がつく。命が変わり、色に残る。草木から色を頂き身に纏うことが、古き言い伝えのなかでは悪霊より身を護るためとも言われていて、美しさの中に隠れるそういった伝承に興味も重なり、より深く草木染めや自然布に興味を持ちました。

草木染めをより身近に行いたいという理由から、現在拠点にしている東京から長野県に居を移します。

佐藤 : 東京でも、コンクリートから草木がすごい勢いで飛び出していたり、たんぽぽが元気に咲いていたり、目を凝らせば都会にも自然はたくさん溢れています。長野に行けば、情報量は落ち着くので、もう少し日々の営みの時間の流れを大切にしたいです。

今回の対話を終えて暮らしの身の回りに起こる小さなモノとコト、そのひとつひとつをできるだけていねいに受け止め、佐藤さんのものづくりの旅路はこれからも変わらずにずっと続いていくのだろう。
聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

野 原 作 品 展
「 映 季 」
それはヒカリのあそびば
時間と空間のあそびば
一期一会で訪れるその季を映すあそびば
生きとし素材を手にし
どんな形になりたいか、どんな鉱物草木と一緒にいたいか
そんなことを最初に聞いて、あとはあそびばの中へ一目散
時に大きな流れの中に委ねて
針を布に刺し進めてみたり
紐を編み進めてみたり
主に自然布や革を使い
鞄やお財布などの暮らしの道具と
同じように布や植物を使い、
装身具を展示即売いたします
この季を映した作品達とともにお待ちしております