うつしき

うつしき

対 話 - 佐々木 雄一 [ 前 編 ] -

誰しもが時に、理想と現実の間のギャップに悩み、抱える葛藤。
 
もがき打ちのめされ、それでも歩みを進められるのか、それともどこかで諦め区切りをつけるのか、と無数に提示される選択。
 
「葛藤を乗り越えれたのは、人との出会いが大きかったです」。
 
そう話すのは、宮城県大崎市にある「いびつ」店主の佐々木雄一さん。
 
20代前半よりオーストラリア、アジア各地を放浪後、親戚から譲り受けた喫茶店を自らの手で改修を行いお店を始動。同時期に革の作品を本格的に作り始め、4月17日(土) からうつしきで初めての展示会が開催されます。
 
精力的に活動の幅を広げている佐々木さんですが、自分の中にはずっと不安や臆病な気持ちがあると言います。
 
苦しみや葛藤に正面から向き合い、お店作りに至るまでのこれまでの歩み。その先に見えてきた景色について、伺いました。
約8年かけ自らの手で改修を行った「いびつ」店内。ひし形の窓や床材は当時のまま。

「ものなんかはやっぱり人が使って、使わなくなって枯れていき、最終的に土に還っていく過程に美しさを感じています」。枯れたものに惹かれると話す佐々木さん。素材を雨水にさらし、自然の中で生まれた偶然な表情を、作品に移しだしていく。

佐々木 雄一
親戚から譲り受けた喫茶店を自らの手で改修を行い、宮城県・大崎市にてギャラリー「いびつ」を始動。同時期に革の作品を本格的に作り始める。染色のされていない1枚のヌメ革を雨水に晒し、自然の中で偶然生まれた表情として、財布や革小物として映し込む。好きなものを作りたいという果てしない探究心から生まれた革の作品は、時間を糧としてその生を養い、一つの人生のような物語を醸し出していく。

迷いが教えてくれたこと

「中学生の頃からロックやパンクなどの音楽が好きで、その影響から革を持ったときの衝撃は大きかったです。中学生の頃に革の財布を買ったことや、高校生の頃は古着屋に行って、ボロボロの革ジャンを買ったことも思い出に残ってるんですよね」。学生時代から集めていたCD300枚以上が並ぶ。
宮城県で生まれ育ち、ファッションが好きだったことから「服のそばにいる仕事をしたい」と中学生の頃に描いていた佐々木さん。

雑誌のストリートスナップなどでスタイリストという職種を知り、ファッション専門学校に進学するため上京します。

「単純に自分が好きなものを自分が着たいという理由で通ったのですが、結局それでは仕事にはならないという現実がわかって。周りの才能ある人がいる環境の中で、そこに劣等感を感じたりしていました」。

専門学校を辞めた後に地元へ戻り、自分が何をしたいのか明確な答えが出ず、釈然としないまま働く日々。

「お金が必要で仕事してるんだけど、やっぱりずっとモヤモヤしていました。この環境を抜け出すためには、いままで知らないところに一歩踏み出すことが必要なんじゃないかと思い、海外へ旅立つことを決断しました」。

理想と現実の狭間

「海外にいた時はやっぱり単純に楽しかったです」。そう振り返るように、ワーキングホリデーを利用してオーストラリアの地へ渡り、その後タイやインドなどの土地を放浪。

「10代の頃から枯れた雰囲気を持つヨーロッパの古いものに興味がありました。アジアを旅した時に、そういものが多く、いままで見てこなかったものに出会えて、そこから古道具の魅力に惹かれていきました」。

オーストラリアやアジア各地を巡り、もう一年海外に滞在しようした矢先に、東日本大震災が起きます。

「映像で見知った場所が壊れていく様子を見て、なんか言葉にはならないんだけど、いろいろ思うことがあって、地元に戻り住宅設計に関わる仕事を始めました」。

専門学校を辞めた後からずっと、おばさんから譲り受けた場所でお店をすると心に抱いていた佐々木さん。

理想とする未来と、目の前にある現実の狭間で葛藤する中、ある一言が背中を押されたと振り返ります。

「”お店をやる”っていうことだけはブレずに自分の中にあって、すごい進みは遅いんだけど、ずっと考えていて、でも一人じゃできないと思っていました。帰国してから奥さんと付き合うようになり、『お店やりたいと思うんだよね』みたいな話をした時に、『私もやりたい』って言ってくれたことが覚悟を決めるきっかけにもなりました」。
奥さんの桃華さんと二人三脚で日々お店を営む。「振り返るとお店を始めれたのは、人との出会いが大きいです。陶芸家の作家さんやお店をすることに助言をしてくれる方。それこそ一緒に旅した仲間など、刺激を与えてくれる人がいたからこそ、葛藤を乗り越えれた気がしています」。

形式にとらわれず

古着を仕入れ、しっくりこない形があれば、裁断や染めを行い、好きな表情やシルエットにひと手間くわえて仕上げていく。
自らの手で改装を行い、2018年に器や服、蒐集してきた古道具が並ぶお店として『いびつ』をオープン。

「見る人から見たら『ギャラリー』や『服屋』など、そう思う方もいると思うんですけど、なるべく形式にハマらないお店にしたかったんです。ずっと “なにをやりたい” っていうことを決めれなかったので、そのままいこうと。お店の名前の通り『いびつ』でありたいんです」。

作品は生き方の表れ

4月17日(土)より開催される『いびつ 展』。

今回の展示には佐々木さんの手により生み出される財布や鞄など革作品のほか、古着を染色して仕上げられた衣服や蒐集してきた古道具も並びます。

佐々木雄一として初めてとなる展示会。どのような気持ちで臨むのでしょうか。

「作品を作ることは、いままで何を見て、どう感じたのかということが、不思議なくらい映し出されます。こうして展示の機会を与えてくれるお店があるというのは、そのお店に気持ちを添わせながら自分の好きなものを作ろうっていう想いが強いです。うつしきを訪ねて心地よかった空気感みたいなものを、作品や展示を通じて表現できればなと思っています」。

今回の対話を終えてどんな経験も無駄なことはなく、様々な縁が折り重なって人生がいかにふくらみを持っていくのか。佐々木さんのこれまでの歩みは、葛藤と向き合うからこそ、人生の景色は変わると教えてくれます。次回の後編では、革の作品ができる過程について執筆予定です。
聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

いびつ 展
日程
2021年4月17日(土) – 4月25日(日)
期間中休みなし
時間
13:00-18:00