うつしき

うつしき

対 話 - 永瀬 二郎 [ 前 編 ] -

誰もが知っている素材を用いて、新しいものづくりへの挑戦をしている人がいます。
 
素材として歴史の浅いアルミニウムを用い、これまでにない表現を模索している永瀬二郎さん。
 
その姿勢は手段にとらわれることなく、鍛金などの工芸的な技法と、プレス機やCAD、3Dプリンターといった工業的な技術を応用しながら、意図しない素材の揺らぎや動きから生まれた産物を作品として映し込んでいます。
 
1990年生まれの若き作家は、何を感じながら歩みだしたのか。東京にある工房内で、未開拓の分野に挑戦する好奇心について伺いました。

永瀬 二郎
1990年生まれ。美術大学で金工を学び、2018年から独立、都内工房で製作している。近年は素材として歴史の浅いアルミニウムによる新しい表現を模索している。鍛金などの工芸的な技法と、プレス機やCAD、3Dプリンターといった工業的な技術を応用しながら、意図しない素材の揺らぎや動きから生まれた産物を作品として映し込む。器、文房具などの日用品をはじめ、楽器や装置などの非実用的なシリーズ等も制作している。
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廃校となった学校の教室の一室に工房を構える

以前小学校だった建物の一室を借りて工房に。近くにある材料屋さんでアルミニウムを仕入れている。

民族楽器好き

民族楽器好きの二郎さん。インドの持続音を鳴らすためのリード楽器 <シュルティボックス> を、自動で音を鳴らすために、改造して試作中のもの。弾ける楽器は <ウクレレ> と自然の木の実を2つ紐でつないだアフリカのパーカッション楽器 <アサラト>。

古いものへの眼差し

工房内には大学時代から集めた古い機械や道具の数々。

美術大学で金工を学ぶ

「絞り」と呼ばれる鍛金の技法、一枚のアルミニウムを叩いて、ひとつの形へと仕上げていく。

素材としての歴史

「アルミのカタマリ感が好き」と話す二郎さん。電動工具の鋸刃によるギザギザの断面のような、工業製品には出せない不揃いな表情に目が留まるブックエンド。
素材としてのアルミニウムの歴史は浅い。

鉄は5,000年前くらいには使われ、銅はさらに歴史が古く、遺跡から加工されたものが発掘されています。このふたつは、その後、武器・農機具・工業製品など様々なものに使われるようになり、文明とともに歩んできました。

一方、アルミは鉄や銅と同じく実用的な金属でありながら、鉱石から取り出す方法が確立されたのは、だいたい130年ほど前。

美術大学で金工を学び、作家として独立するにあたり、どうして二郎さんはアルミの素材を選んだのでしょうか。

「アルミニウムを選ぶ理由は、単純に色味と素材感が好きっていうのがあります。あと、素材としての未開拓の可能性に惹かれています。鉄や銅、銀はどんなに自分が技術や加工方法みたいなものを思いついても、長い歴史上、まずやっている人がいるんですよ。アルミはまだ歴史が浅く、今は工業的な使われ方が多く、手工芸の素材としての歴史が抜けているような気がしていて、その部分にまだ素材としての堀り残しがあるのではないかと思っています」。

小さい頃から手を動かしてものを作ることが好きで、多摩美術大学の工芸学科に入学。大学の初年度は金属だけでなく、焼き物やガラスなどの素材をある程度経験した二郎さん。最終的には金属専攻に進み、金属の工芸技法や技術の基礎を学んだ。大学院を卒業後は、アートユニット<明和電機>で働き、2019年には独立して本格的に作家活動を開始。

自作の火起こし器


未開拓の分野に挑戦するのは、ものづくりへの飽くなき探究心から。

その想いは、7月24日(土)より開催される『永瀬 二郎 展』に並ぶ作品からも現れます。その一つが今回の展示のために、アルミニウムで制作した火起こし器。

モノの構造や仕組み分解して、再構築していくのが好きなオタク気質の二郎さん。

「原理や仕組みに興味があり、構造を自分で作った時が楽しいです。中学校の頃、釘を叩いて日本刀のようなものを作ったことがありました。石の上で五寸釘を金槌で叩き、砥石で研いで、本当に小さい刀みたいな形になって。それでその小さな刀で紙を切ったんですよ。その時に、機能を作り出した時の感覚があり、感動しましたね。

それと同じような感覚で、音が出るものを作る時も、最初はハーモニカを分解して、その中にあるリードの仕組みを一度自分で作ってみて、吹いて音が鳴った瞬間とかに、ものづくりの喜びみたいなものを感じます。今回の火起こし器もすでに概念として存在はしているものですが、 自分が作るにあたって、できれば人と同じじゃないアプローチで作りたい気持ちは強いです。道具としての使いやすさはもちろん、存在感としても楽しんでもらえたらと思います」。
今展示では、『学びの場』の夏休み特別企画「永瀬 二郎の新作 ”火起こし器” 実演・体験 真夏の焚き火にじゃがいものホイル焼き」を開催予定。二郎さんが用意した火起こし器を体験できるのはこの場だけ。

その空間で何を感じるか

展示前の打ち合わせでうつしきに訪れ、空間のサイズを図り、CADソフトで一度展示の空間構成を考える。コンピューターも鍛金もフラットな目で、ものづくりをするための手段として捉えている二郎さん。
オンラインショッピングが当たり前になりつつあるいまの社会。今展示でも二郎さんの未知なる挑戦があります。

「ネットでモノを買ったり見たりするのが昔よりも当たり前で、いい面もすごいあると思うんです。だからこそ、展示会をして、その場所に来てもらい購入するという行為は、すごい特別なことじゃないですか。うつしきの世界観でやることで、個々の作品の見え方もそうですけど、作品全体や空間を通じて、展示会場に訪れてよかったと思ってもらえるようにできたらいいなと思っています」。

二郎さんのうつしきでの初めての展示に共鳴する人がいる。2015年9月に東京・蔵前に開業した、和洋様々なジャンルで修行を経験した店主の丸井裕介さんが織りなす、ジャンルレスの洋食と自然派ワインが愉しめるカウンターバル『Comptoir Coin(コントワール・クアン)』。7/24(土)・25日(日) 12時から、喫茶室ですべて永瀬二郎のアルミ作品で提供される8品のコース料理が愉しめます。美味しいオーガニックワインと共にぜひ味わっていただきたい。

展示にも並ぶ『Comptoir Coin(コントワール・クアン)』店主の丸井さんが食洗機で使用して、経年変化した二郎さんのお皿。

今回の対話を終えてアルミニウムのクールな印象の素材感とは反対に、会話の端々に感じる二郎さんのまだ見ぬものへの飽くなき情熱。その想いは作品を通じて、どのような空間になるのかいまから愉しみです。次回の後編では、民族楽器からアルミニウムの作品ができる過程について執筆予定です。
聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

永瀬 二郎 展
日程
2021年7月24日(土) – 8月1日(日)
期間中休みなし
作家在廊日
24,25,26日 / 30,31,1 日
時間
13:00-18:00

Comptoir Coin お食事会
7/24(土)・25日(日)
12時開始
¥8,000
すべて永瀬二郎のアルミ作品で提供される8品のコース料理