うつしき

うつしき

対 話 - 清水 志郎 -

陶芸について語る時、陶芸家の清水志郎さんは真摯に言葉を選ぶ。大切な物を、より多くの人に理解してもらいたいという気持ち、語り尽くせないけれど、その過程から得た真実を伝えたいという思いが、熱い言葉になって伝わってくる。

素材となる土から掘り、手廻しろくろを回し、温度維持が難しい薪での窯焚き。効率化に囚われすぐに結果だけを求める時代の中、なぜ時間や労力がかかる工程を経て、作陶をされているのだろうか。

展示会前に、滋賀県にある工房でお話を伺いました。

見ている景色が器にうつる


「器づくりは、何を信じているか。ろくろに座る前に作品づくりは始まっている」と清水さん。

効率重視を考えていたらその思考が作品に表れ、作る過程を楽しんでいたらその様子も作品には反映される。

23歳の頃から展覧会を始め、毎回どんな展示にするかアウトプットに軸足を置いていた20代中盤。

30代を手前に、アウトプット中心ではなく、興味があることに対して学んでいくことを決意。

気になることがあれば、まずはやってみる。

これまで茶道、書道、気功整体、料理、金継ぎなどの習い事をはじめ、各分野のプロフェッショナルの先生から考え方や生き方を学ぶ。”姿勢”のようなものに影響を受けたと振り返ります。

それは禅問答のように、器とは何なのかと根本的なことを日々繰り返し考え、言葉よりも五感で見たり聴いたり、感じることを大切にしてきた。

土と向き合う

自然環境が作り上げた偶然の産物に魅力や面白さを感じるからこそ、清水さんの視点は土にも向けられている。

土堀りを始めたのは28歳のとき。きっかけは京都で飲食店を切り盛りする友人の「土とか掘らへんの?」という一言。はじめて掘った川の土が水分量のバランスや、粒子も天然水肥されていたことから、そのままろくろでひけそうなちょうど良い土だったことを受け、川の粘土がそのまま器になることの喜びを覚えた。

それ以降、「子どもが夢中になっているのと一緒」というように、工房の周りや展示先で訪ねた土地の土など、ご縁的なものを感じながら土を採取し続ける日々。

「土を掘ることは、ただ原料を採りに行くのではなくて、土掘りをする行為自体にすごく元気をもらっています。目を凝らせば、身の回りに粘土質の土はあって、そういう世界の広がり方も魅力的で、それがはまるんですよね。『大変なことしてますね』って言われるかもしれないんですけど、喜びでしかないです」
撮影時、土掘りを終えて工房に向かう帰り道に偶然見つけた地層。そのタイミングで大雨というハプニングも。
撮影時、生憎の天候の中、土掘りの過程を同行させてもらいました。「やっぱり土掘りは好きですね」と清水さんは黙々と土を探し続ける。

清水さんと共に、土という素材に触れてみると、予想外に石が混在していたり、粘土質によって出来上がりの形が制限されたり、器作りに適した土は簡単には見つからず、土という素材に寄り添わなければならないことを実感します。

工房に戻り、ろくろを回す作業。そこにあるのは、土と自分だけ。頭で考えるのではなく自然と導かれるように、土に触れ、対話をする。そうする理由はとてもシンプルで”好き”だからだ。

機械的にならないため


20代の頃は作陶する過程で、手廻しろくろや薪窯も使わず、効率が良い手段を選んでいた時期もあったと振り返る清水さん。

自らを変えるためには、環境を整えることから始まる。当時、工房にあった電動ろくろを譲り、蹴ろくろを導入して作陶。購入していた土を使うことを辞め、掘った土だけで作品作りをすることを宣言。

新しい挑戦として沢山の試行錯誤を重ねてきたと想像に難くありません。

頭だけではなく身体を使い、五感を研ぎ澄ますように作品と向き合う日々。成功や失敗に囚われず、これが今の自分の形だと納得できるものを、感性に正直に作る。

「古いものや手仕事に惹かれるのは、揺らぎや傾きなど、人の感覚が残っているところで、そこには機械的ではない感触があるからです。頭だけで作っても、手に取ってもらう人に『へえ』って納得してもらえるけど、心に響くところまでなかなかいかない気がしてます」

瞬間の表情


「作り始める時に決めているのは、大きさと個数くらいです」。清水さんの作品は、定番というものがほとんどない。基本的にはいま現在興味あることや、展示会ごとにテーマを決め、その都度新しいものを制作していく。

同じものを繰り返し作ることで完成形に近づいていくことは、自分には向かないのだと語る清水さん。その手から生まれる作品には、清水さんが土と向き合う中で偶然生まれた表情が、そのままにとどめられている。

「どうなっていくのかわからない。徐々にやっていくうちに、何となく方向性が見えてくるんです」。手探りで進んでいくうちに、次第に向かうべき地点が見えてくる。

何度も削っては、実際に使用する場面を思い浮かべながら持ってみたり、口に運ぶ動作をして使い心地を確かめているという。手作りであるがゆえに揺らぎはあるけれど、それによってそれぞれの人の手に馴染む一点を見つけられるともいえる。

7月23日より開催される『清水 志郎 陶展』。掘った土がどのような形になって、うつしきの空間に並ぶのかいまから楽しみです。

今回の対話を終えていまは何でも自分で作ることができる時代。インターネットで大勢の人とコミュニケーションがとれるし、クラウドファンディングでお金を調達することもできる。もしかしたら陶芸の世界も、3Dプリンターなどを用いて制作する日が近いのかもしれません。

「昔の人達から見たら電子窯が新しかったように、新しい技術も面白いと思っています」。清水さんはあくまで昔ながらの作り方に固執するのではなく、柔軟な心持ちで変化していく姿勢がとても軽やかにみえる。どんなにテクノロジーが発達しても、大事なのは頭だけでなく、五感を使って手間をかけるという行為と精神性こそ、かけがえのないものであると気付かされます。
聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

清水 志郎 陶展
2020.7.23 – 8/2
期間中28日 (火) のみ店休日
13時 – 18時