うつしき

うつしき

対 話 - TANE -

一あなたは、あなたの食べたものでできている。

身体は、日々の食事によって養われています。食べることは自分と向き合うこと。

大分県別府市にある南インド料理をベースに、自身のフィルターを通して季節の野菜を使用した料理を提供している「TANE」。

店主である太田豊茂さんのこれまでの歩みは、食べることは身体をつくるだけでなく、心の栄養にもなると気づかせてくれます。

気になることがあれば、とにかく飛び込んでみる


人生は導かれるように進んでいきます。20代前半、週末はクラブでDJを行い、そのまま寝ずに出勤する日々。ある日、この生活を続けていたら身体が壊れてしまう。そう感じた太田さんはDJ活動を辞め、身体や食生活のことを見つめ直します。

気になることがあれば、とにかく飛び込んでみる。瞑想やヨガに出会い、身身を整えることに興味が湧き、より深く知りたいとマッサージを学びに3ヶ月程タイへ向かう。その後、初めてインドの地へ足を運ぶことに。この出来事が、太田さんの人生を変えるきっかけになります。

身体が喜ぶおいしさ


インドでは、ヒンドゥー教をはじめとするさまざまな宗教により、古くから人々の間に「殺生による肉食を避け、菜食によって徳を重ねる」という観念があります。

肉や魚を使用しないベジタリアン文化が古くから根付いている環境。太田さんは、一年間程野菜中心の食事をとり、自然と寄りそいながら、規則正しくシンプルに暮らすことを重んじたといいます。

日々の食事を自炊していたことがきっかけで、インド人の日常的な食生活の姿勢に惹かれることに。

特に太田さんを魅了したのは、一皿で表現する伝統定食「ミールス」をはじめとした南インドの家庭料理。

気温の低い北インド料理では、体を温めるため、脂肪分の多い乳製品を使った調理法が多い傾向があります。それに比べ南インド料理は、野菜や豆類が中心で、気候や食べる人の健康状態を鑑みて食材やスパイス、調理法が選ばれます。

「ある時、南インド地域にホームステイをしました。その家庭で、子どもが冷たい水を飲もうとしたら、冷たい水は身体を壊すからと家族に注意をされていました。そういった食に対しての意識が日常の中にあります。南インド料理を通じて、味のおいしさに加え、身体にみなぎる喜びを届けたい」。

帰国後、その想いを伝えるために開業を決意。

種から広がる


「TANE」の名前の由来は、南インド料理を通じて、医食同源の考えや環境について知ってもらい、その想いが体感した人の種となり、それぞれの物語と混ざり合い育んでほしいという願いがあります。

2017年、奥さんの地元が福岡県ということもあり、店舗・移住先を含め近隣の地域を探していました。ある時、導かれるように大分の地に移住を決断。2018年には、大分県別府市にお店をオープン。縁もゆかりもない土地だったけれど、自然に近く食材も豊富で、日々人の温かさに触れているといいます。

食べた記憶は心のどこかにいつまでも残っている


山香デザイン室小野友寛さんの展示に合わせ、今回で二度目となるうつしきでの「TANEの南インドコース料理お食事会」。

店舗で料理を振る舞うのと、出店活動に大きな違いはあるのでしょうか。

「食事会前、インドを訪れていました。暮らしの中で当たり前に思っていたことをひとつ変えてみると、日々がもっと自由になることを体感します。食事会は、参加して下さった方に、インドから受け取っている恩恵を直接伝えていける場でもあります。これからも、身体や自然に負担になることなく、身体と心に滋養のある食事やひとときになるように、心を込めて食を通じて、分かち合えたらと思います」。

食に学んで、力を抜いて


毎朝4時30分に起床し、5時からヨガを行い、7時にお店へ出向き、7時30分から仕込みをする日々。

20代前半の食生活を経て、食べるものや身体と向き合い、確かな変化があると話す太田さん。食生活が変わり、溜まっていた疲れや体調を崩す兆しなど、身体の声が聴こえやすくなったといいます。

「寝不足や食べ過ぎた次の朝は、違和感に気づきやすいです。ベジタリアンの食生活など通じて、食が疎かになると、判断の基準の速度や精度が変わります」。

目まぐるしい毎日。時として、ジャンクフードなどが食べたくなる気持ちとは、どのように向きえばいいいのだろうか。

「もし、自分の中でどうしても変えたいという想いがあるのならば、確固たる決意を持ち、少しずつでも変化していく事が大切だと思います」。

今回の対話を終えて生きていくために食べることは欠かせない。何事もいきなり変えるのは難しいことなのかもしれません。ただ、日々食べるものや身体と向き合う。そうした積み重ねが、生きる活力に繋がると太田さんは実体験を通じて教えてくれました。

聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

Abstract object

大分県杵築市に在る山香デザイン室
デザイナー小野友寛氏によるうつしきでの二回目の個展
古来より日本人は時の流れの堆積した
詫びたものや錆びたものに抽象的な美しさを見出してきた
物事や表象を 性質・共通性・本質に着目しそれを抽き出して把握する
紙や土、木といった素材を解釈し噛み砕き
それぞれの素材の質感の美しいと感じた部分を作品として昇華する
デザイナーであり作家である二つの側面を持つオタク気質で研究に余念のない
別名山香のガンジー
そんな彼の抽象表現をどうぞお楽しみあれ