うつしき

うつしき

対 話 - 西別府 久幸 -

“花の一生を見せていきたい”

「花屋 西別府商店」店主の西別府久幸さんの活動の根底にはこの想いがあります。

2014年にロシアの古道具を扱う「古道具 はいいろオオカミ」店主の佐藤克耶さんと共に、東京・青山にある古いマンションの一階にお店とアトリエを構え制作する日々。

植物の生と死を受け入れ、最後まで慈しむ姿勢はどのような気持ちからくるのだろうか。

古道具と植物の息遣い


鹿児島県で生まれ育ち、幼い頃から祖父の影響から、自然物でのものづくりが好きだった西別府さん。ジブリ映画が描く不思議な植物の世界や色使いに大きく影響を受け、「夢のような世界観を作りたい」と試行錯誤を重ねて向き合う毎日。

「はいいろオオカミ+花屋 西別府商店」の空間を彩るのは、西別府さんが市場へ出向き、直接見て選んできた個性的な花たち。「同じ植物でも育ち方次第で変化があります」と、見慣れない花の色や形の理由を楽しそうに、かつ真剣なまなざしで教えてくれる。

花器として使われているのは、佐藤さんが選んだロシアのミルク壷「ゴルショーク」やガラス花器など。そこに、ロシアの古道具や日本の雑器、民具などが渾然となって溶け込みます。古物と植物。真逆の要素が混ざり合う店内は、しんとした空気の流れと、古道具と植物の息遣いが感じられ、「完璧が好きじゃない」と話す2人の感性が心地よく調和した空間。

「自然なものが少ない都心という場所だからこそ、お店に訪れた人が植物や古道具に触れ合うことで、忙しい時間を忘れ、心休まる場にしたいという想いがあります」

身近に植物は溢れている


制作する上で大事にしているのは、植物と対話すること。

「作る過程で、持っていきたいイメージの一歩手前で一度手を止めます。正解がない世界なので、効率的にいこうとせず、植物にとって最良の形にやっと行き着くように試行錯誤を重ねます」

お店を始めた時期は、珍しい植物を仕入れるかに特化していたと振り返ります。いまはポピュラーな素材をいかに自分らしくアレンジできるかがおもしろいと話す西別府さん。

「落ち葉でも擦ったら良い香りがするように、視点を変えることで、日常生活でも身近に植物は溢れています。そういったことを知ると、日々の暮らしは豊かになると感じます」

存在感をそのままに


「お花が一番美しいのは、枯れた瞬間とその後。だから花が芽吹いて、枯れて、土に還るまでの時間を見せていきたい」

ドライフラワーも永遠ではなく、乾いて朽ちていく過程の中にあるもの。色鮮やかな葉は徐々に色褪せていき変化する。水分がなくなって一回り小さくなり軽くなったとしても、存在感は消えません。花は、咲いたら枯れる。そんな潔さに魅力を感じるという。美しさよりも、その生き様を見ているのだろうか。

西別府さんは、朽ち果てた花や植物をアート作品として残しています。経年で印象が少しずつ変わっていく様子も愉しめるように。

「形の残らない過程に生まれ続けるものと、束の間から伝わるものに惹かれるのかもしれません」

自然が生んだもの、人の手が作ったもの、どちらもいつか朽ち果てていく。そして土へかえり、そこから再び緑が芽吹き花を咲かす。どの瞬間にも、美しさは隠されている。

森の小さな鏡

うつしきで四度目となる展示。

展示を重ねていく中でも、常に根底にあるのは、訪れた人を驚かせたいという純粋な気持ち。

今回のテーマは「森の小さな鏡 」。

一日一回は目を通す鏡。もやもやしている気持ちでも、植物と触れ合うことで気持ちをリセットしてくれるように、暮らしの中に植物があることは、日常を少し贅沢にするもの。

6月20日より開催するうつしきでの展示が、どのような空間になるか楽しみです。

今回の対話を終えてニュースばかり目にすると、気持ちが沈みそうな自粛期間。暮らしの中に植物を飾った人は多いのではないでしょうか。「お花は生きていて、人も生きているから共鳴し合うことが大事」と語る西別府さん。植物を飾ると空気が透き通るように、日常を彩ります。

聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

はいいろオオカミ+花屋西別府商店 展
Лесное зеркало – 森の小さな鏡 –

いつもあなたの近くに
不思議な世界への入り口は存在しています
あなたにはそれを決して忘れないで、
いつまでも過ごして欲しいです

6月20日(土) – 6月28日(日)
期間中休みなし
13時 – 18時