物事の前途に見え始める希望の光。室内装飾家「chikuni」さんの作り出す作品にはそんなことすら思えるような、日常をともに過ごす洗練された佇まいを感じる。木や鉄、古いものなどを使い、用途とデザインが相俟った機能美をもつ作品は、いままでの経験を生かした独自の歩んできた経歴によるもの。ものづくりをはじめた過程と作品が生まれるまでの想いについて話を伺った。
──どのようなきっかけでものづくりを始められたのでしょうか。深く遡ると、どのような事に興味をもつ学生・社会人時代だったのでしょうか。
chikuniさん : 幼少期に実家の改築作業に携わる機会がありました。ある日、両親から方眼用紙をもらい、自分の理想の家を描くという遊びをしていたのですが、知識のない中平面図を描くということがものすごく楽しかったんです。それ以来、時間さえあれば家を描いてました。 同時にプラモデルを組み立てることも好きで。 描くことと実際に作ること、両方を自分でやるのが楽しいと思っていました。
建築の学校でデザインや空間構成を学んだ後は、デザイン会社へ就職。商業デザインをメインに行っていたため、グラフィックだけではなく、 プロダクトのデザインからそれを陳列する為の什器のデザインなど、 幅広く関わることができました。その後エクステリアの会社で溶接や鉄の仕組みを覚え、職人的な仕事を経験しましたね。アンティークショップで家具の修復や木工を習得し、古物商の資格をとり、販売から納品まで全部をこなし、 お店の運営に関わるさまざまなことを身につけることができました。まったく意図したことではなく、自分ではあまり計画的でもなかったのですが、結果として今までの経験がかなり役に立ち、いまの僕のものづくりに繋がっています。
──独立するまでになった大きなきっかけがあれば教えてください。
chikuniさん : 独立後、最初につくったのは、知人がオープンするカフェのためのテーブルと椅子でした。そのカフェにクラフトフェアの主催者が訪れ、その方に声を掛けてもらい、フェアで作品を発表したのが転機になりました。そのときはじめて、職人ではなくクラフト作家という仕事を知りましたね。そこでさまざまな作家さんに話しを聞き、自分なりに調べて、目が覚めました。家具を作っていたので端材がでるのですが、街なかのアトリエだったので薪にもできず、木の屑を捨てるのにもお金がかかる。その端材で作ったのがナラの木と碍子、布撚りコードを合わせた「丸台座照明」でした。もともとインテリアデザインを職業としてしていたことを生かし、インテリア小物をつくりたいと思うようになりました。
──chikuniとはアイヌ語で「樹」を意味しますが、なぜ自身の作家名をアイヌ語にされたのでしょうか。
chikuniさん : 図書館で多くの文献を読んでいた頃、アイヌの人が描き下ろした歴史書に出会いました。アイヌの民芸は一つひとつに深い意味があり、知れば知るほどに彼らが残してきた伝統文化に強く惹かれます。アイヌの生活に欠かすことのできない、木に対する想いなど、 自分の感覚にも近いものを感じていました。 木は種類によって違い、そして育った環境によっても性質が変わり、 さらに使い込むことによってますます変化していくもの。 生きているものだからこその楽しさと難しさがある。だから作品を作るときも、自分の想像を越えたものが出来上がることがあり、 それが頭に描いてた以上に良かったりすると、木の仕事の奥深さや魅力に気付かされますね。日本語でも英語でもない、不思議に心地よい言葉の響きも気に入っています。
──作品の素材選び、デザイン、制作までご自身でされていますが、こういう家具・道具を作りたいというのはどのような瞬間に思い浮かぶことがあるでしょうか。
chikuniさん : 基本は、生活に纏わるものや心を豊かにしていくものを作っています。大切にしているのが、定番の一点物という考えです。僕が作っているもので、骨董市で仕入れたアルミ食器をベースに、ビスを打って仕上げた「アルミ時計」があります。たとえばアルミ時計を新しいアルミ板でつくったら、きれいだけれど工業製品のようになってしまう。僕の場合、骨董市などで仕入れたアルミ食器を素材にしているので、形は定番でも一点ずつ表情の異なる味わい深い質感の物なんです。
照明は本当に好きで、花を挿し、光を壁面におくと壁に花の影が映り込み美しいだろうな、など日常の中で色々と頭に浮かびますね。それとは別に、僕の欲求で作っていくオブジェがあります。定番の一点物とオブジェをつくる事で、自分の中で丁度よいバランスをとりながら、ものづくりをしていますね。
──ものづくりする上で心掛けている点を教えてください。またその時に興味を持ったことなどは作品に反映されていますか。
chikuniさん : さきほどの「アルミ時計」を例にだすと、骨董市で一番浅いアルミのお皿を見かけた時に、これは時計にできると思いました。アルミのお皿を薄くスライスして、同素材のリベットを打ち、時計と張りを設置する。その時に数字を打ち込む必要がないと思いました。余分なものを削ぎ落とす。必要なものをいれない。それで機能が成り立てば、それでいいと思っています。作るものすべてが僕の中で思う、美しさであってほしい。それで完成したのが「アルミ時計」になります。 基本は自分が欲しいと思うものですが、 空間に動きをもたらすようなものが好きですね。 サイズ、高さ、大きさなどに自分なりの法則があります。デザインや空間構成を学んだ経験があるので、 家具や道具の捉え方にも建築的な視点があるかもしれません。
見て美しく、実際にインテリアの中で使える。それを目指しているので、「室内装飾家」と自分で名乗り、さまざまなジャンルに縛られない道を選びました。美術書を飾りたいという思いでつくった作品「book on the wall」も機能からできた形です。僕はもともと美術書が好きで、それを立てかけて飾りたいと思っていました。本を表紙だけではなく好きなページを開いて飾ったり、絵や写真をフレームよりももっと気軽に飾れて、それだけを壁に掛けても絵になるような装置を、と考えたらこの形になりましたね。自分がその時に興味を持ったことは、自分の中に解釈をして落とし込み、ものづくりに反映されます。
──- 今後、どのような未来を思い描いているでしょうか。
chikuniさん : デザインだけでも制作だけでもなく、『描いて作る』というプロセスが好きです。今回の展示会でのOLAibiさんのLIVE照明演出や、お客さんとの店頭での会話で、自分の興味が広がり、作品にも反映されたり。そうやっていい相互作用が、この先もずっと続いていくのではないかなという気がしています。
今回の対話を終えて
chikuniさんのこれまでの軌跡を辿ると、人生で起こるどの出来事も、いまの活動に繋がっていると実感します。
「暮らしの中で使う」を基本とした作品は、使い手の肌に馴染み、暮らしにすんなりと溶け込んでいく。
「描いて作ることがもう楽しくて」と語ってくれたものづくりへの一途さは、これからも脈々と続いていくのだろう。
うつしきでの次回の展示は2019年春を予定しております。今からその時が待ち遠しいです。
chikuni展
[ 明 仄 ]
物事の前途に見え始める希望の光
chikuniの作り出す作品にはそんなことすら思えるような
日常を共に過ごす洗練された佇まい
闇を照らす優しい光を人は求めているのではないか
多くの人々の日々を照らし出す
冬のうつしきに明かり燈る景色を想いながら
夜明けの光を待つようにその時を待ちわびて。