うつしき

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対 話 - 佐々木 雄一 [ 後 編 ] -

佐々木雄一さんの革作品の工程は、染色のされていない1枚のヌメ革を雨水に晒すことから始まります。
 
“好きなものを作りたい”
 
どの活動に対してもその根幹にあるのは、細部に至るまで “好きなもの” への一途さ。
 
これまでの軌跡を辿ったインタビュー前編に続き、後編では制作過程についてのお話です。

佐々木 雄一
親戚から譲り受けた喫茶店を自らの手で改修を行い、宮城県・大崎市にてギャラリー「いびつ」を始動。同時期に革の作品を本格的に作り始める。染色のされていない1枚のヌメ革を雨水に晒し、自然の中で偶然生まれた表情として、財布や革小物として映し込む。好きなものを作りたいという果てしない探究心から生まれた革の作品は、時間を糧としてその生を養い、一つの人生のような物語を醸し出していく。

ヌメ革とは植物の渋にも含まれる成分のタンニンを使って牛の原皮を鞣し、型押しなどの表面加工をほとんど施さずに仕上げた革のこと。

自らの手で改装を行い、2018年に器や服、蒐集してきた古道具が並ぶお店『いびつ』をオープン。枯れたものに惹かれると話す佐々木さんによって作り出す空間は、その審美眼により集積されたものがひとつの風景を生み出している。

好きな素材がなければ自分でつくればいい

知識や既成概念にとらわれず、ものと向き合い続けている佐々木さん。大事にしているのは、周りからの評価ではなく、自分が好きかどうか。
「全く染色のされていないきれいな状態のヌメ革は、好きじゃないんです」。

作品を作る上で大事になっていく素材。既存にあるものをただ受け入れるのではなく、いかに自分好みの表情や形に仕上げていくかの実験を繰り返していると話す佐々木さん。

好きじゃないものを、どうやって好きな状態にしていくのかが大事ともいいます。

「ヌメ革は元々は個体差があるものなのに、きれいな状態のものは、個性が消されたように感じていて。それが良いのかと言われるとわからないんですけど、作り始める前にヌメ革を雨水に晒して揉みます。乾燥させ、切り出して仕立て、一つずつ柿渋をメインに染め、仕上げにオイルを塗って作りあげていきます」。
きっかけは、雨水を吸わせたら素材がどんな表情になるのかという好奇心から。

作為と自然のあいだ

金具も求めているものがないということから、火を炙って好みのテクスチャーに仕上げていく。美意識は細部に至るまで込められている。
試行錯誤を繰り返しながら素材を探求していくのは、好きなものを作りたいという理想を佐々木さんが強く持っているからです。

作り続けることで知識や技術があがっていく中、作為的な要素をどんどん消していきたいといいます。

「こういう風に作ろうと臨むと、作為的なものができたなと思ってがっかりすることが多いんです。技術が上がるといろんな事やってみたくなり、作ろうと思うものは凝っていきやすくなりがちです。作為的な要素はできる限り減らして、自然の中で偶然生まれた表情になるように心がけています」。

「作っていくなかで、過剰にやりすぎるとカッコつけている気がしてすごく恥ずかしくなるんです。だから本当は形を作りたいというよりも、好きな素材を作りたいんだと思います。雨水に晒すのもそうなんですけど、ものづくりをする上で、素材がどうやったら自分の好きな状態になることが重要なんだと感じています」。

「最初から納得のいく表情ができあがった訳ではないです」。手を動かすことを忘れず、自分自身と向き合い積み重ねてたからこそ、しっくりくるものが作れるようになったと振り返る。

手間と時間をかけて

4月17日(土)より開催している 『いびつ店主 佐々木雄一 展』。

佐々木雄一として初めてとなる展示として沢山の準備を重ねてきたと想像に難くありません。160点程の作品はその熱量を物語るよう。
革作品には佐々木さんの手によって描かれた詩的なサインが施されている。すべてが手作りで一点もの。革の形や染め方、表情が一つ一つ違うのも特別な味わいを感じる。
作品は用途という実用性とは別に、ただそこに在ることに意味を持つ美しさが備わっています。

展示期間は4月25日(日)まで。この場所にしかない景色をぜひ体感して頂きたいです。

今回の展示には財布や鞄など革作品のほか、古着を染色して仕上げられた衣服や蒐集してきた東北の古道具も並ぶ。この光景が見られるのも展示期間中のみ。

今回の対話を終えて佐々木さんの革作品を初めて見た時に、どのようにして味わい深い表情ができあがるのか気になっていました。効率性ではなく、ひたすら自分が好きなものを追求するものづくりの姿勢。その裏には理想に向けて、着実な一歩を重ねる背景があったのです。どの作品群も繊細な手間ひまと、自然の中で偶然生まれた革や染めの表情が映しこまれております。遠方で来れない方は、オンラインでも作品を公開しておりますので、この機会にぜひご覧ください。
聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

いびつ店主 佐々木雄一 展
日程
2021年4月17日(土) – 4月25日(日)
期間中休みなし
時間
13:00-18:00