うつしき

うつしき

対 話 - 雨降り 喫茶と民藝 -

大きな変化は、小さな決断の積み重ねの先にある。

『雨降り 喫茶と民藝』 店主の功刀 皓旦(くぬぎ ひろあき)さんのこれまでの歩みは、人生とはそのことの連続なんだと実感します。

静岡県三島市で家族とともに、厳選したスパイスを用いたチャイと軽食を一つ一つ丁寧に提供する日々。

これまでに至る歩みと、これから挑戦することについて、展示会二日目に伺いました。

旅先で見た景色を感じて


功刀さんがお店を生業にすると決めたのは、インドを旅していた頃。大学卒業後、北欧家具の修復師をしているお兄さんと共に工房を構え、制作活動を開始。2年後、旅に対して憧れを抱いてた功刀さんは資金を貯め、タイ・インドを放浪。

旅先で訪れたのが、タイの北部にある小さな町『パーイ』。バックパッカーが集うこの町では、毎晩ナイトマーケットが賑わいます。功刀さんもアクセサリーを作り、ナイトマーケットに出店。世界中の人たちと過ごす時間は、「人と人がゆっくりと集えるお店を作りたい」と想うきっかけになったといいます。

その町に一軒しかないチャイ屋との出会いは、その想いをさらに加速させることに。「衝撃でした」と語るように、一杯のチャイはこれから歩んでいく人生に変化をもたらします。

その後に訪ねたインドでは、一人で過ごす時間が多くなり、気づけばお店の名前やメニュー構成まで考えるように。お店づくりへの熱い思いは冷めず、半年かけて周る旅を早めに切り上げ、帰国して開業を決意。

雨降り 喫茶と民藝


旅を通して得た感触は、功刀さんの行動と言葉に温度をのせる。その想いは周囲の人に伝播し、様々な協力を得て、2015年12月に物件が確定。開店までは、朝から深夜帯までお店作りに奔走。2016年1月に『amefri chai and craft』の名前でオープン。

厳選したスパイス素材を用いた、タイで味わったチャイの味を独自に求め、人々の日常に寄り添う一杯を提供する日々。店内には、アジアで買い付けたものや日本の古道具などの民芸品が並びます。

2018年には結婚を機に、家族経営へと切り替えます。そのタイミングで店名を「雨降り 喫茶と民藝」に改名。どうして店名を変更したのでしょうか。

お店を始める前までは、海外の文化に関心があった功刀さん。お店を営んでいくにつれて、民芸の姿勢や考え方に共感。日本文化への興味が、店名を日本語に変更した理由だといいます。

「昔の人は、田畑で農耕作業をするとき野良着を着用します。もしそこに穴が開いたら、新しいのを買うのではなく、刺し子で補修して着用していました。ものを長く使い続ける精神や、使い手を思う姿勢が民芸にはあり、それは美しいことだと感じています。」

残しておきたい記憶

『野 原 作品展』では、厳選したスパイスを用いたチャイと軽食を提供。

『野 原』の佐藤 健司さんとは、功刀さんが高校生からの旧知の仲。お互いに様々な経験を経て、佐藤さんから「展示に出店をしないか」と声をかけてくれたといいます。

展示会での出店は、初めての試み。「気合をいれて臨みました」と語るように、新しい挑戦として沢山の準備を重ねてきたと想像に難くありません。今回は展示用に、2種類のクッキーとティーバッグチャイのティーバッグを2つ用意。

「展示会初日を終えて、お客さんが素敵な方々ばかりで、楽しい時間を過ごせました。作品や美味しい料理は、思い出に残っていくのですが、一番思い出に残るのは人と過ごした時間なのかもしれません。人と過ごす時間のなかに、僕が作る料理があいだにあることは幸せなことだと実感しています。」

小豆島にみちびかれて


運命とは、自発的に動いた時に起こりうるのだろうか。2019年に、車旅でたまたま立ち寄った小豆島との出会いは偶然的なできごと。

「海は透き通り、潮風が心地良く、出逢う人は皆温かく太陽も温かい。小豆島という船でしか渡れない島を好きになりました。好きになると景色は一気に拡がり、気付いたら高台に100年は佇む素敵な素敵な古い家の門の前に立っていました。」

家族で暮らしやお店について意見を交わすなかで、より衣食住に関わる空間にしたいという方向性が見えてきた時期だともいいます。そんな縁で出会った古民家。大家さんは、民家を解体する予定でもありました。

ゼロからお店づくりした時、自分が動けば状況も動くと知った。「動いてみないと、わからない」。功刀さん家族は、小豆島に住居兼店舗となる古民家を購入。静岡県から小豆島への移住を決意します。

「小豆島で築およそ100年の古い家と古い納屋を改装して喫茶 宿 商店を始めようとしています。またそこに付随して山と畑もあります。先人が大切に紡いできた延べ約3000坪はある土地を家族の自由な物語りを縦横無尽に綴って後世に紡いでゆきたいと思っています。」

今回の対話を終えて人生は大きなものから小さなものまで決断の連続です。決断する上で大切なのは 、自分自身が納得できること。功刀さんのこれまでの歩みは、決断を繰り返すことで、人生の景色は変わると教えてくれました。これからの先の小豆島での店舗も、どのように変化していくのか楽しみです。
聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

野 原 作 品 展
“巡る風や”

ながれながれ 息吹の風は
過去の光が集う約束の旅路

動物はまなざしを持って私たちに寄添い
植物は風に乗って人を撫でる
幾重にも重なる記憶の欠片を道しるべに
冬の間に紡ぎ続けました
春の陽に包まれて
野原の片隅で会いましょう

高知県四万十の鹿革
日陰で身を潜めていた布革の端片
大切に受け継がれた古き布
長い旅路の果て
私たちの手に巡って来た愛おしい子たち

日々使うお財布や鞄
衣や包み、用を持つも持たぬも
手指心伸
素直にひらめき つむぎやつむがれ
うつしきに吹く春の風や