家具製作、照明演出、室内装飾、横浜市にあるアトリエ兼ギャラリー「10watts field & gallery」の運営。いくつもの顔を持つ室内装飾家「chikuni」さん。
植物にとって根が養分を吸収する重要な役割を果たしているように、どの活動に対してもその根幹にあるのは「ものづくり」への一途さ。
前回の対話を経て約二年。移ろいゆく季節の中、どのような体験や想いを経て、展示会に臨んだのだろうか。
chikuniさんが、肩書や常識などの既成概念に囚われない発想を育んだのは、幼少期の頃だと言います。
「当時、自宅をリフォームする話があり、両親から『自分の好きな部屋を描いてみてごらん』と言われ方眼用紙を渡されました。インテリアなんて言葉は知らなかったけど、『こんな家とか、あんな部屋にしたいな』って考えること自体がすごく楽しかったんです。それからは時間があれば家や部屋の絵を夢中で描いていました。同時にプラモデルを組み立てることも好きで。 描くことと実際に作ること、両方を自分でやるのが楽しいと思っていました」。
建築の学校でデザインや空間構成を学んだ後は、デザイン会社へ就職。商業デザインをメインに行っていたため、グラフィックだけではなく、 プロダクトのデザインからそれを陳列する為の什器のデザインなど、 幅広く関わります。その後エクステリアの会社で溶接や鉄の仕組みを覚え、職人的な仕事を経験。アンティークショップで家具の修復や木工を習得し、古物商の資格をとり、販売から納品まで全部をこなし、 お店の運営に関わるさまざまなことを身につけます。
昔から作品に”抜け感”があるものが好きと話すchikuniさん。
「民芸という世界では、素朴な素材で『こけし』という作品があります。その中には、作り手が完璧など気にせずに作っているものを目にすることもしばしば。もちろん美しいというのは基本ですが、財布の紐を緩めて買うのは完璧から少し逸脱した抜け感があるものです。人形に例えるとしたら、両足揃っている人形というよりは、一部が欠損しているよう人形に惹かれます」。
作品を作るときも、自分の想像を越えたものが出来上がることがあり、 それが頭に描いてた以上に良かったりすると、ものづくりの奥深さや魅力に気付かされると言います。
作るものへの興味や関心が移ろうなかで変わらずに信じているのが、丁寧であること、正直であること。
「丁寧さには確かな技術があります。自分が望むような仕上がり感を実現するには必要なものだと思います」。
技術と知識を組み合わせて、自分が思う納得のいく仕上がりまでひたむきに目指していく。正直さは、ものづくりの過程で迷ったとき自分自身にとっての道しるべのようなものになる。自然と気持ちが動く方に舵を取れるように、常に持ち続けたいものとchikuniさんは話します。
chikuni展が開催される2週間前、2019年12月7日4時53分、うつしきのスタッフである田代沙織さんが、出産時に脳卒中が起き、天に旅立ちました。その訃報が届いたとき、言葉では表せないさまざまな感情がしばらく混在していました。
「今回の展示では定番ではない、一点物の新しい照明作品として”ラマ”を作りました。ラマの意味は、アイヌ語で塊や精神。うつしきの想いや、静かに力強い青葉市子さんの演奏を照らす光でもあります。素材となる切り株は、静岡県の海岸に流れ着いた流木。静岡県は、田代さんの生まれ育った場所でもあり、展示会中にヴィーガン料理お食事会を催してくれた「Panchavati」のお二人も縁のある土地。その切り株を見たとき、出来上がったイメージはできたのですが、どう加工するか試行錯誤をしました。一歩間違えれば指を切ってしまうような工程でしたが、新しい景色となることを願い、最終的には理想通りの形にできました」。
灯りはいつの時代も私たちの生活に寄り添い、暮らしの営みを照らしてきました。誰かを祝福したり、励ましたり、悼んだり。一筋の光は、目に見えていないだけの世界から、新しい小さな命に託して、この先の未来が大きな光で照らしてくれるようにと、心の中で見守ってくれています。
chikuniさんが音楽家の照明演出を行ったきっかけは、七夕の日に開催された、青葉市子さんとharuka nakamuraさんの演奏会「流星」。
「会場後ろの映像スクリーンには『天の川』を投影し、10ワットの照明を15台使い、とても暗い演出をしました。プロの照明の方は絶対にやらないような暗さだったけど、二人は気に入ってくれました」。
それまでは、自分が表現したいものを提案する形で制作をしていたchikuniさん。誰かのために制作した初めての出来事だったと言います。この経験が糧になり、演奏会での照明演出は自身のアートワークに繋がることに。
今回うつしきでは、展示「余韻余光」に合わせてchikuni照明演出の元、青葉市子さんの演奏会を行いました。
「生まれる事と死ぬ事は同等の価値がある。『死』と向き合う事は同時に『生』と向き合う事」。
ひとりの聴き手として、演奏会中に青葉市子さんが曲前に語った言葉が心に残り、演奏会の余韻に浸りました。
二年という歳月の中、スタッフが増え、「人を育てたい」という気持ちが強くなったと話すchikuniさん。
それは技術の研鑽だけでなく、ものづくりの姿勢や感覚を伝えることでもあります。
「若い人達を集めた展示もお店で開催してみたいです。教えられることは教えていきたい。ものづくりの世界は終わりがない世界なので、周りの方々と悩んだり笑ったりしながら、これからも自分の作品を作り続けたいです」。
今回の対話を終えて喜びや悲しみ、人々の大切な想いがあるところに添えられる灯り。その風景はいつだって心の中で思い出すことができます。一生に一度の人生、悔いを残さないように、当たり前のようで当たり前でない日々を大切に精一杯生きる。今日も前を向いて、まんまる穏やかな一日を積み重ねていきましょう。
聞き手・文 : 小野 義明
chikuni 展
余韻余光
街を歩けば過剰なまでのネオンの光
我が先にと豪華絢爛煌びやかさを競うかのように
デザインにおいての知性とは?をいつも考える
障子越しの光や蝋燭の火の灯り
そんな光をchikuniの照明作品から感じるのは
僕だけでは決してないはずだ
日常で使うことに配慮した古い日本家屋からモダンな空間と
幅広い生活に寄り添った作品群
今回は特別に青葉市子さんをお招きしての演奏会
そして静岡にあるpancavatiのヴィーガン料理のフルコース
視覚、聴覚、味覚を揺さぶる内容に光が添えられる