うつしき

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対 話 - はいいろオオカミ -

ロシアの古道具を扱う「はいいろオオカミ」店主の佐藤克耶さん。

2014年に「花屋 西別府商店」店主の西別府久幸さんと共に、東京・青山に佇む古いマンションの一階にお店とアトリエを営む日々。

どうしてロシアの古道具に惹かれ、どのようなきっかけで西別府さんと二人で活動を始めたのだろうか。

きっかけはロシア文学から


インテリアデザインを学ぶ専門学校に通い、コンペで使う和箪笥を探して骨董市に通ったり、当時から古いものが好きだった佐藤さん。卒業後は都内にある建築設計事務所に勤務。

はじめは大型施設を設計する仕事で、いわく「自分には建物が大きすぎた」と振り返ります。

同時に図面に反映されていないものに興味を持ち、新しい素材で建物をつくるより、古い家具ひとつで空間を変えることができる骨董に魅かれるようになりました。

2011年7月に「はいいろオオカミ」をオープン。古道具はロシアで買い付けたものが多く、店名はロシアの民話から名付けられています。

そもそも、ロシアの古道具を中心とする品揃えにしたのはどうしてなのだろうか。

「ロシア文学が好きなのですが、ドストエフスキーなどは、カーテンの色や机の脚まで、空間を緻密に描写しています。文章を読んで、細部にまで神経を注ぐ気質から生まれる道具には、そこに宿るものがきっとあるだろうと想像していました。実際に行ってみると、思っていた通り、日本の古道具に近いような民具や雑器などもありました。例えばゴルショークというミルクの壺。煮炊き用としても使われ、100年以上も前でも人の生活の気配を感じられるのが魅力です」

二人の呼吸の合うところ


お店をオープンした頃、西別府さんが勤務していた場所から近いこともあり、お互いの店を行き来するうちに自然と距離が縮まります。

「はいいろオオカミ」での初めての展示会は西別府さんの展示でした。

「もともとは古道具だけを扱うお店だったんですが、あるとき、初めて彼の作品の個展をしたんです。当時は展示会についての知識も無く、DM撮影も含めて二週間程で展示会を開催しました。何かを参考にして、展示を構成することもなく、何一つ下敷きがない中、最後までやりきりました。そこで、ものを使って空間を作ったり、それを共有する場を作る楽しさというものに惹かれて、お互いそこがリンクしたんです」

このことがひとつのきっかけとなり、イベントや展示などでユニット的な活動を重ねるうちに、『それなら一緒に店をやろう』と2014年2月に現在の店の形へ。

美術や装飾を担当するのが西別府さん。容れ物や技術を担当するのが佐藤さん、できることが真逆だからこそ必然的にいまの「はいいろオオカミ+花屋 西別府商店」が生まれた。

「一番嬉しかったのは、花や器だけを買おうと思って来てくれた人が、器に活けられた植物をみて”これごとください”といってくれたことです」

「古」と「生」が織り成す空間


古道具と生花という対になる要素が共存する「はいいろオオカミ+花屋 西別府商店」。

東京・青山に佇む古いマンションの短い廊下の突き当たりにある扉を開けると、鬱蒼と茂る森のような深い香り。年月を重ねた、さまざまな大きさや形の器と、野趣あふれる植物が目に飛び込んでくる。

一緒にするようになってから、二人の間で一定の決めごとを設けたり、お店のコンセプトを明確に共有するようなことはありません。

「僕らふたりに共通していたのは、モノを売りたいというよりも、僕らが表現した世界観を味わってもらいたいという想い。こういう風にしていこうと共有はしないけど、お互い嫌いなものやことが似ている気がします」

森の小さな鏡


6月20日より開催している「はいいろオオカミ+花屋 西別府商店 展」。

今回で四度目となる展示では、新作でもある「森の小さな鏡」をはじめ、佐藤さんが選んだロシアの民族衣装含む、200点以上の作品が並んでいます。

作品は用途という実用性とは別に、ただそこに在ることに意味を持つ美しさが備わっている。

展示期間は6月28日まで。この場所にしかない景色をぜひ体感して頂きたい。

今回の対話を終えて展示前に、取材で訪れたお店とアトリエ。強くて美しい作品は、時間と手間のかかる地道な仕事から生まれるのだと改めて気付かされます。展示期間中、18時からオンラインにて作品を更新していますので、こちらもぜひ御覧ください。

聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

はいいろオオカミ+花屋西別府商店 展
Лесное зеркало – 森の小さな鏡 –

いつもあなたの近くに
不思議な世界への入り口は存在しています
あなたにはそれを決して忘れないで、
いつまでも過ごして欲しいです

6月20日(土) – 6月28日(日)
期間中休みなし
13時 – 18時