誰もが知っている素材を用いて、新しいものづくりへの挑戦をしている人がいます。
素材として歴史の浅いアルミニウムを用い、これまでにない表現を模索している永瀬二郎さん。
その姿勢は手段にとらわれることなく、鍛金などの工芸的な技法と、プレス機やCAD、3Dプリンターといった工業的な技術を応用しながら、意図しない素材の揺らぎや動きから生まれた産物を作品として映し込んでいます。
1990年生まれの若き作家は、何を感じながら歩みだしたのか。東京にある工房内で、未開拓の分野に挑戦する好奇心について伺いました。
素材としてのアルミニウムの歴史は浅い。
鉄は5,000年前くらいには使われ、銅はさらに歴史が古く、遺跡から加工されたものが発掘されています。このふたつは、その後、武器・農機具・工業製品など様々なものに使われるようになり、文明とともに歩んできました。
一方、アルミは鉄や銅と同じく実用的な金属でありながら、鉱石から取り出す方法が確立されたのは、だいたい130年ほど前。
美術大学で金工を学び、作家として独立するにあたり、どうして二郎さんはアルミの素材を選んだのでしょうか。
「アルミニウムを選ぶ理由は、単純に色味と素材感が好きっていうのがあります。あと、素材としての未開拓の可能性に惹かれています。鉄や銅、銀はどんなに自分が技術や加工方法みたいなものを思いついても、長い歴史上、まずやっている人がいるんですよ。アルミはまだ歴史が浅く、今は工業的な使われ方が多く、手工芸の素材としての歴史が抜けているような気がしていて、その部分にまだ素材としての堀り残しがあるのではないかと思っています」。
未開拓の分野に挑戦するのは、ものづくりへの飽くなき探究心から。
その想いは、7月24日(土)より開催される『永瀬 二郎 展』に並ぶ作品からも現れます。その一つが今回の展示のために、アルミニウムで制作した火起こし器。
モノの構造や仕組み分解して、再構築していくのが好きなオタク気質の二郎さん。
「原理や仕組みに興味があり、構造を自分で作った時が楽しいです。中学校の頃、釘を叩いて日本刀のようなものを作ったことがありました。石の上で五寸釘を金槌で叩き、砥石で研いで、本当に小さい刀みたいな形になって。それでその小さな刀で紙を切ったんですよ。その時に、機能を作り出した時の感覚があり、感動しましたね。
それと同じような感覚で、音が出るものを作る時も、最初はハーモニカを分解して、その中にあるリードの仕組みを一度自分で作ってみて、吹いて音が鳴った瞬間とかに、ものづくりの喜びみたいなものを感じます。今回の火起こし器もすでに概念として存在はしているものですが、 自分が作るにあたって、できれば人と同じじゃないアプローチで作りたい気持ちは強いです。道具としての使いやすさはもちろん、存在感としても楽しんでもらえたらと思います」。
オンラインショッピングが当たり前になりつつあるいまの社会。今展示でも二郎さんの未知なる挑戦があります。
「ネットでモノを買ったり見たりするのが昔よりも当たり前で、いい面もすごいあると思うんです。だからこそ、展示会をして、その場所に来てもらい購入するという行為は、すごい特別なことじゃないですか。うつしきの世界観でやることで、個々の作品の見え方もそうですけど、作品全体や空間を通じて、展示会場に訪れてよかったと思ってもらえるようにできたらいいなと思っています」。
今回の対話を終えてアルミニウムのクールな印象の素材感とは反対に、会話の端々に感じる二郎さんのまだ見ぬものへの飽くなき情熱。その想いは作品を通じて、どのような空間になるのかいまから愉しみです。次回の後編では、民族楽器からアルミニウムの作品ができる過程について執筆予定です。
聞き手・文 : 小野 義明
永瀬 二郎 展
日程
2021年7月24日(土) – 8月1日(日)
期間中休みなし
作家在廊日
24,25,26日 / 30,31,1 日
時間
13:00-18:00
Comptoir Coin お食事会
7/24(土)・25日(日)
12時開始
¥8,000
すべて永瀬二郎のアルミ作品で提供される8品のコース料理