うつしき

うつしき

対 話 - 督田 昌巳 -

「ものづくりで大切にしていることは耳を澄ますことです。手を動かし木を触る中、そこに微かな音が聴こえてくると、ただ無になって手を動かし作ります」。
 
そう語るのは、鹿児島県でアトリエを構え、木材を用い、器をはじめとする木の小物や家具をつくる木工家 督田昌巳さん。
 
ギターを弾き、古い車を直しながら乗り、波があるときにはサーフィンを楽しむ。幼い頃から好きなものづくりが自然と仕事になり、試行錯誤を重ねて向き合う日々。
 
その行動の原動力はどこからやってくるのだろうか。展示会初日に話を伺いました。

存在感を宿すかたち


鹿児島県で生まれ育ち、幼い頃から音楽とものづくりが好きだった督田さん。木工家として活動をはじめたのは、ごく自然な流れでした。手を動かすことが好きで、古くて壊れた家電製品等を見つけては、分解をしていたといいます。その流れで身近にある木材に興味を持ち始めました。試行錯誤を重ねて、家具や小物などの制作を行い、木工に対しての技術を自ら理解し体得。
 
「道具の使い方や、仕上げ方を誰かに習うわけではなく、これでいいのかなと自問しながら、ひたすら作ってきました」。その作り方は、設計図に描くのではなく、手を動かし木を触る中で、形は変わるといいます。
 
督田さん : 木は人間よりも遥か昔から存在していて、想像の範疇を超えた造形を持っています。人が作ったものには意図をどこかに感じたりしてしまうんですけど、木にはそれがありません。木材に触れているとたくさんの気づきがあります。根を張っていた土地の環境、気候、周囲の生物との競合、枝や葉の付き方。木目や節の有無、厚みや模様などによって、この木材は器には向いていないなど、用途が決まることが多いです。

積み重ねて、育てていくもの

督田さんの作品に用いられる木材には、朽ちやスポルテッド (木が倒れた後、バクテリアなどによってできる黒い筋状の模様) が入っている作品が幾つかあります。緻密な年輪、節や朽ちは、その木が生き抜いた過去の時間そのものであり、生きてきた証です。
 
色が濃く変化したり、角がとれて丸みを帯びていったりなど、木は時間の変化が顕著に見える素材。「木材は使えば使うほど、美しくなっていきます」。ゆえに手入れをしながら、長く使えるものも大きな魅力のひとつ。
 
身につけるものも暮らしの品も、手入れをしながら付き合っていくとそれだけで愛着がわきます。

うつろう今を宿して

今回うつしきでは初めてとなる木の器の展示。300点近くの見応えある器や小物などの作品群が並びました。
 
さらに、督田さんご本人が製作し見立てた茶道具を用い、お抹茶を点てていただく「うつしき喫茶室」も開催。
 
器も茶道具も、木工を始めた頃は、作る気はなかったといいます。ここに、督田さんの行動の指針があります。「自分の興味から生まれたものしか作れない」。
 
お皿を作る際も、料理に興味を持ち、美味しものを食べに出掛け、自身でも料理するようになってから、用途に応じたお皿を作り始めました。
 
その理由は至ってシンプル。「自分が見たいもの、使いたいものを、できる限り自分の手で作りたい」という気持ちからだといいます。

時を纏い変化することに委ねて

「ものをつくるという行為は、人の意識よりも本能に近いところにあるんじゃないかと思うことがあります。それまでに経験したことや知識が無意識のうちに総動員されていくような、何度もやるうちに頭を使わなくても体が勝手に動くようになります」と話す督田さん。
 
100余年に及ぶ歳月の中で、自然環境が作り上げた偶然の産物に作り手の意識は意図ではなく、時を纏い変化することに委ねて、手仕事は何の作為もなくただ淡々と微かな音に耳を傾けながら手を動かす。
 
訪れるあらゆる偶然の出来事。それらを受け止めるしなやなかな美しさが、督田さんの作品には宿っています。
 
督田さん : 自分にはものづくりしかできないという覚悟があります。今回のうつしきでの展示や訪れた方々との出会いを大切にしながら、これからも作品を作り続けていきたいです。

今回の対話を終えて人間が生まれ、木を道具にする遥かに昔から、木は存在していました。木はずっと、人の生活を支えてくれる。督田さんの話は、人間が根源的に持っている木との付き合い方まで、想像が膨らみました。次回2021年の作品展まで、手に取った器がどのように変化しているのか楽しみでもあります。
聞き手・文 : 小野 義明

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[ 展示会情報 ]

督田昌巳 展

手を動かし木を触る中

そこに微かな音を見出すという督田昌己

その人の持つ源流と言うのは言葉にせずとも

何処かに滲み漏れる

木を扱う仕事を生業とし、家具、器と作る作品も時代と共に拡がっていく

料理を作る人の飾り付ける為皿に求めること

用途に応じた厚み、形、深さ、大きさを知るために料理を始め

茶器を作る為に茶を習い始める

全ての作品に通ずる形違えど醸しだす微かな音を見出して欲しい

乞うご期待