モノづくりと社会との接点。
もしそこに『職業』と『人種』のような分岐点があるのであれば、木工家 督田昌巳さんは後者になります。
「人の心臓が意識して動かしているわけじゃないように、モノづくりも作ろうとして作っているわけじゃないのかもしれません」。
世間のニーズや周りの評価を気にすることなく、ただ無心になって手を動かし作る日々。
その行動の原動力はどこからやってくるのだろうか。そこには、自分のことを精一杯生きる姿勢がありました。
大きな欠けが印象的なこの器。
督田さんの作品作りは、木目を観ることから始まります。
「自分の意思で、良い木目ばっかり取ったりはしないです。良いところばっかり選ぶと、要らないところがいっぱいでてきます。じゃあ、要らないところをどうするかというと、捨てたりする訳ですよね。でも、それも全部 “いのち” だから、その木がなりたい姿にあわせて、形や染色を決めます」。
見た目を良くするだけの理由で、木材を削り、加工をしたくないと話す督田さん。
「 “用の美“ を作ったのは名もない作家さん達です。美しく見せるために作るのではなく、日常的に使うための道具として作ったものが、美しいものであるということに惹かれます」。
カンナで削り、平面をだすことで、使う時に漏れが染み込みにくくなるなど、美意識は機能的な理由とともに細部に至るまで込められています。
家とアトリエ、波があるときには海に出かけサーフィンを楽しむ日常。
どこか遠くの世界に刺激を求めるのでもなく、ただひたすら自分のやるべきことの深さを追求しているような姿勢に感じます。
督田さんの眼差しは、先人たちの精神性や感性に向けられる。
「昔の人は『ご飯をつくる』『洗濯をする』など、暮らしていくことに一生懸命で、周りと比較する機会も少なかったと想像しています。そういう暮らしの中でやらなきゃいけないことの中に、些細な幸せを自分で見つけ、名もなき職人さん達はものづくりをしていたんじゃないかな。どれだけ幸せだったかはわかんないですが、それで充分幸せだったと思うんですよね。つまり自分の立っている地面と、天との間で生きていた。周りと比較することなく、自分の好きなことに集中して、これからも作品を作り続けていきたいです」。
今回の対話を終えてスマホを触れば、無意識に周りのことが見えてしまう中で、比較しないで生きていくことは難しいことなのかもしれません。そこへ、少しでも豊かに生きていく術が ”自分のことを精一杯生きること” だと督田さんのこれまでの歩みから気づかされます。展示期間は6月27日(日)まで。遠方で来れない方は、オンラインでも作品を公開しておりますので、この機会にぜひご覧ください。[インタビュー記事 前編]
督田 昌巳 展
日程
2021年6月19日(土) – 6月27日(日)
期間中休みなし
作家在廊日
19日(土)
時間
13:00-18:00