ふとした瞬間、
目の前の景色をそのままに留めたくなることがある。
例えば夕方へ向かう陽が、さいごの力を振り絞るように眩しく光って、
水が張られた田んぼに映る様。
そのあとには雲が桃色に染まり、夜の色が落とされにじんでいく。
惹きこまれていくうちにいつの間にか暗くなっている。
ほんの束の間に起こる景色の変化の中にみられる色の移り変わり。
今!という瞬間に心を寄せてつかもうとしても
さっきまでそこに在ったはずの色が、すっかり姿を消してしまう。
染色は古来から装飾としての役割や、身分を表わす役割、
虫等を寄せ付けない保護のための役割、
その時代時代において多様な役割を持ち、伴う技法が生まれています。
個人差がありますが、人間はほかの動物に比べ遥かに識別できる色が多いそうです。
中でも日本の色の多くが景色や自然の名を持っていることから、
都度変わる瞬間を色として留めたのではないだろうか。
或いは生まれた色に景色を結び付けたのではないだろうか。
そんなことを思い浮かべます。
先週まで開催していたCOSMIC WONDER ゛白 光の夢 展゛では、
厳選された8型の白い衣服をお好きな色に染めていただく受注会を開催いたしました。
色は13色。
COSMIC WONDERが築き上げてこられたご縁のもとに集められ、
どれも手掛ける方がわかる、自然の恵みと共にその方の懸けられた時間や技術が込められた色。
背景に在る色の持つ物語も相まってじっくりと悩みながら、学び深い愉しい会となりました。
すぐ傍に在ってほしい色。
ある方は安心感のある色を。
ある方は今までにない新しい色に挑戦。
個人的には奄美大島の伝統工芸の染色の Nirvana soil という名の色を選ばせてもらいました。
決め手は黒に近い泥染の深い色が西日に照らされた時、
黄金色が浮かび上がったのがあまりにきれいで。
街中とは違い、自然光がありありと影響するうつしきだからこそ見える色なのかもしれません。
訪れていただいた際はぜひそんな愉しみ方も。
曖昧だったNirvanaという言語を改めて調べてみると
古いサンスクリット語で、火を吹き消した状態を指す言葉。
お釈迦様が入滅の時にろうそくの火が静かに消えていくように亡くなられた事で
涅槃(ニルヴァーナ)という言葉が使われた。
火が表わすのは煩悩。人間が持っている本能から起こる心の迷いがなくなった状態。
名付けられた言葉を辿っていって、
この色にどんなことを重ねているのか想像を膨らませるのも愉しいものです。
COSMIC WONDERのコレクションでも、
その色へ充てがわれた見立てに心留めずにはいられないことがあります。
それぞれの衣服に添えられたタグには、色のイメージであったり意匠を表わすコンセプトが
手紙のように美しい世界拡がる言葉で綴られています。
手元に迎えいれたらそちらもお目通し下さいね。
今展での色を少しだけご紹介すると
・
Ryukyu indigo
宙を写す海のような山原の碧 琉球藍染
・
Wild rose
深い薔薇のような赤 コチニールの草木染、テーチ染(車輪梅)
・
White indigo
Light indigo
Indigo
日本伝統の青 正藍染
こちらは以前の展でも手掛けてくださった紺屋 仁さんによる貴重な生藍染。
下記の対話では数えきれないほどの工程を経て色を生み出す彼らの営みを紹介しています。
東京近郊にお住いの方は゛白 光の夢゛巡回展を締めくくるCenter of COSMIC WONDERにて
6/25よりご覧いただけますよ。
うつしきでは引き続き厳選した衣服が並んでいます。
今展の13色にはない、sumi yambaru indigoの奥行きのある色は、
ぜひ実物をご覧いただきたい色です。
鉱物を思わせる角度や動きによって幾つもの色を含んでいるような豊かな存在感に触れてみてくださいね。