うつしき

うつしき

光漂う

熊谷峻 境田亜希展 お越しくださったみなさま有難うございました。
季節の変わり目の陽気を舞台に、春の景色を纏ったガラス作品が刻々と表情を変える。
まるで絵画のように、ばらばらの色の集まりが手を取り合って作品の中にいるみたいで、
うっとり見惚れてしまううつしきでした。

うつしきで展示としては初めてご紹介のガラス作品。
個人的にとても身近で思い入れのある素材です。
父が吹きガラスを生業とし自宅横に工房を構えていることもありガラスに囲まれて育ちました。
幼い頃は危ないから近づいたらだめと言われたその場所は、
無数の不思議な素材と、自作の窯が並んだ秘密基地のようでした。
常にガラスを1200度ほどの高温で熱する為、火を炊くゴーっと唸る音が響き、
学校から帰るとその音に負けないよう、ただいまーと大声で伝えていたことを思い出します。
冷めると成形できなくなるのでガラスを吹く長い竿を素早く降り回し
あっという間に形作られる様子、
目に見える変化だけでなく、たくさんの機械に囲まれ音にも注意を払う。
神経をピンと張りつめた緊張感をいつも持っていた父を怖いと思いながらも、
作っている過程が面白く目が離せなくなっていました。
とろとろの液体のものがだんだん姿を変えて
宝物みたいに光を放つのが魔法のようでずっとずっと見ていたかった。
想えばものの成り立ちに興味を持つきっかけはここにあるのかもしれません。
出来上がりの状態だけでなく、工程や辿ってきた道のり、
ある意味どんなものにも人格のようなものが含まれていて
そんな部分を発見する愉しみにも魅力を感じます。
ガラスをはじめて40~年。
今年もまた冷え固まったガラスの窯を壊し修理して新たに制作準備。
力尽きるまでずっと続けられたらと娘ながらに願っています。

長い年月をかけて発掘された土器にも見える熊谷さん作品。
どうやってこんな風になっているんですか!?とみなさん過程にも興味津々でした。
サンドブラストと呼ばれるガラスに砂で傷をつけると瞬時に仕上げられる工程を、
手の塩梅でひとつひとつ傷を付け味わい深い風合いをつくる境田さんの作風。
つくることの喜びやご自身が率直に作品に対して美しいと感じていることが伝ってきます。
うつしきでは作品だけでなく普段露わにならない作り手の作業風景や考え方等の言葉も届けるコンテンツがあります。
インタビューを記事にまとめた゛対話゛と投稿もお愉しみに。
手にした作品と合わせて、ものと作家さんの為人も知ってもらえたらと思います。
オンラインでの展示は3/6(月)10時まで、会期延長できることとなりました。
何度も写真や映像を見てお気に入りをみつけてくださいね。

時折じっくり朝日を見ていると、
窯の中の熱いガラスの色が浮かびガラスが有機的なものに思えます。
日の出の時の顔を出した太陽のエネルギーをいっぱいに放とうとする色にとても似ているのです。
お二人との出逢いでガラスに興味が湧き、傍に置きたいとおもっていただけるとこの上なく嬉しいです。
店頭に足を運べる方は、ぜひ春の光を通した美しい景色に触れてくださいね。

小西 紗生