せいかつのまんなかに、ただいま
小野 佳王理

「バッグがない!」
隣町からUターンをして、もう一度門司港を目指す。
憤りを鎮め、何も言わない夫。
フェリーの時間に間に合わなかったらどうしようと焦り、反省する自分。
その空気を読み、車の中で静かにしている4人の子どもたち。
そんなバッタバタの出発から始まった、8泊9日の新潟〜長野〜岐阜〜和歌山の旅。
いつからか、育った場所は「帰る場所」ではなく、「向かう場所」になった。
その場所で見る懐かしい景色のなかに、今の自分が見つけるものがある。

今回は、松本にあるギャルリ灰月での夫、yasuhide onoの展示在廊を終えたあと、
うつしきで関わってくださっている方たちのもとへ足を運びました。
東京タワーよりも標高が高く、特別豪雪地帯に指定されている町に住む、野原と珈琲 占野。
初めて訪れる、野原の「アルの森」。
ノコギリで木を伐り、少しずつ切り開いてきた場所。
そこで多くの時間を過ごしているという。
森と関係を築きながら、自分たちの手の届くところを自分たちの心地よいやり方で整えているように感じた。
占野くんが景色の角度にこだわって建てた新しい小屋は、珈室とはまた違う、せいかつの場所。
みんなで手前珈琲焼酎に舌鼓を打ちながら、
近所に住むおじいちゃん、おばぁちゃんたちとの交流が、日常にある話を聞く。
冬の雪掻きをこだわって仕上げる話を生き生きと話する姿に、さすがだなぁと感心してしまう。
新潟でニットブランドyatoをてがける渋谷さん。
自宅から見えた、夫妻二人で自給しているという畑と田んぼ。
自分たちで塗っている土壁。囲炉裏の煙と炭の香り。
まだ作業の途中にあるその風景が、せいかつそのもののように見えた。
畑のものがたっぷり使われたごはんを沢山用意してくれて、身体に沁みた。
岐阜の郡上に住む、岡本よりたかさん夫妻。
10時間以上かかる道のりを経て、
いつも講座に来てくださっている二人の住まいに、ようやく足を運ぶことができた。
物件情報にも掲載されないほどボロボロだった家屋を、時間をかけて住める場所にしたというが、そんな面影を感じないほどそこには二人のせいかつがあった。
小分けにされ、きれいにラベリングされた瓶。
丁寧な仕事ぶりが、そのまま家の隅々にあった。
最後は、今年の9月の周年の展示をお願いしている川井有紗さん、笑達さんたちが住む和歌山へ。
大きなアトリエを建設中のなか、迎えてくれた。
制作が日常。きっとアトリエで過ごす時間が大半なのだろう。作品で埋め尽くされる日がすぐ来るのだろうなと想像してしまう。
いつもここへ来るのは夏。太陽と土が、とても近く感じられ、大きな懐のように思う場所。
今回訪れた、みんなの場所。
それぞれが大切にしているものに囲まれて、ずっと居心地がよかった。

だからなのか。
和歌山から9時間近くを一人で運転してきた夫のおかげで、心身ともに余裕があり、
みんなが寝たあと、一人黙々と、できる限り片付ける。
少しでも早く、いつものせいかつに戻れるようにしておきたいと思って動いていた。
翌日、保育園児の二人は早速登園。
長い休みのあとは「保育園行きたくない〜」と言うのに、
いつもより早く、ささっと着替えている姿にびっくりする。
窓を開けて、
みんなで片付けと掃除をして、いつものせいかつが始まった。
針一本分の糸で刺し子をして、
朝方、ハーフマラソンに向けて走って、洗濯機のスイッチを押して、
みんなの朝ごはんを用意する、なんてことのない一日。
けれど、ひとがせいかつするところには、
いろんなものが動いている。
せいかつのまんなかを、
わたしたちは掴むことはできない。
持ち続けることもできない。
ただ、帰ってきて思うのは、
この場所に居たという事実がある、ということ。
今日もここに居て、目には見えないものも、
気づかないうちに過ぎていくものも、その一日のなかにすべてある。
そうしてまた、
いつもの一日が始まるのだなぁ。
今週も佳き日々をお過ごしくださいね◯
