ひとり前夜を過ごす

小野 佳王理

朝露が見られるようなった季節に産まれた娘
外に出れば菊の花がいつしか咲いていた
周年の最終日から花月日の秋冬新作発表展、功刀匡允展を終え、今週末からは、はいいろオオカミ+花屋 西別商店の展示が始まります
目紛しく過ぎる日々を支えてくれる家族をはじめ、周囲に心から感謝する今
5回目の帝王切開で出産を迎え
ひとりになったからこそ浮き彫りになった自分の弱さを知る
ほんの数時間の出来事を振り返ります
手術前夜
睡眠導入剤を飲んだにもかかわらず、寝付けず、朝が来るのを待つように数時間起きに何度も起きる
”安静に過ごしてくださいね、以前、手術前夜に陣痛が来て別の病院に搬送された方もいました”
そんな心配する言葉が頭に残っていたからでしょうか
お腹の中で蹴ったり動いたりしているだけなのに、陣痛ではないかと疑い何度も起きる
それでも緊張はしていないようで、手術を迎えても心拍数は上がらず平常心
“もう慣れてますね”
その言葉の通りだと受け止めていました
5人の中で一番小さく産まれた赤ちゃんは
胎外へ出た瞬間、呼吸が浅く、血糖値も低かったようでなかなか顔が見れないまま
一方で母体は子宮の収縮が上手くいかず、縫った場所の止血ができずいつもよりも手術が長引く
感覚がない中、子宮は正常に戻ろうと収縮して頑張っている
それなのに飛び交う会話から心は不安になり
麻酔で痛みはないけれど溝落ちを押され、苦しさが増す
そんな苦しい時に浮かぶのは子どもたちの顔
ゆっくりと息を吸い込み吐き出した瞬間
“ぁあ、わたしは怖かったんだなぁ”と受け止めることができたのです
5回目の手術にどこか不安になっていて、
通院している病院で何事もなく手術を終えたいという気持ちが強く、
その気持ちこそが執着であり、苦しみを生んでいたことに気づく
起きた目の前の事にひとつひとつ対峙していけばいいことなのに
前夜、架空の中をひとりで過ごしてしまったのだなぁと自分を見つめる
とは言っても渦中に居ると気づかないもの、、
こうゆう小さな執着は日常に点々と存在するなと、
最後は悟りを開いたかのような達成感を手術室の天井を見上げながら染み染みと味わう 笑
その後、ようやく赤ちゃんの顔を見て緩んだのか
安心と共に緊張の糸がほどけ
術後はいつも余裕だった心も身体も今回は一気にへとへとに。
この世に生を受けた娘
始まったばかりの人生はひとつひとつが初めてのことばかり
目の前の事を存分に味わうことが生きる醍醐味だということを
どうやらまずはわたしに教えてくれたようだ
小野佳王理