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夏を写す

夏を写す

「大河」「草花」

五十ほど同じ字が並んでいる。

近所の郵便局に飾られた小中学生たちの書。

壁一面に並んだ習字紙には同じ字のはずなのに、みんな違った顔が並んでいるようだ。

季節ごとに変わるそれはコンクール用だったのか、いつもとは違って直しを含めた朱色の字もそこかしこに踊っていた。

丸や花丸と並んで、それぞれに充てた先生の言葉。

字形、線共に素晴らしい
筆使いがしっかりしています
さわやかに書き上げました
きれいにまとめました
一字一字大切に書けました

普段単にきれいや、美しいで済ましていることがどれだけあるだろう。

そこにはどんな風にきれいなのかが少なからずあるはずで、一つの形容詞でも修飾する言葉が伴うことで見え方がまるっきり違うのかと立ち止まらずにはいられなかった。

ひとりひとりの字がその人だけの持ち味だと感じる言葉が贈られていて、こんな言葉をもらえると嬉しいだろうなあと胸が熱くなる。

去年から訥々と続けている写経。

うつしきオンラインでお買い物してもらう方へ添えさせてもらう手紙を、少しでも気持ち伝わる字を書きたくて朝に少しづつ練習している。

字を書くだけが目的でなく観察力も磨きたいという願望もあり、お手本を真似てみているが、むつかしくて仕様がない。

無論、漢字だらけのお経は手紙に書く文字があまり登場しないのだけれど、画数の少ない仮名文字は誤魔化せない分もっとも難易度が高い気がする。

親戚一同お寺の環境で育ち、呪文のように聴いていたお経を音としてしか捉えていなかったなあ書写と共に今更ながら勉強。

たくさんの知った顔の僧侶たちが同じお経を読む中で、般若心経はこのおじちゃんのがたまらなく好きだ!とか、舎利礼文はいとこので聴きたい!とか私の中での推しがあり、気に入りの音楽を聴く感覚で、ああこの調子や声がしっくりくるなあなんて厳かな法要の愉しみにしている。

そして演目の張り紙、戒名を書かれた毛筆の字に背筋が伸びる。

父方の祖父は書道の先生、母方の祖父は僧侶。

当たり前に筆で書を重ねている姿に憧れ、また、それぞれに異なる字を書くのがおもしろいなあと常々思っていた。

ことあるごとに目にする書がその人を真正面から表わしているようで、字でこんなに心を震わせるのかと感動することも多々ある。

と同時に書に特別な神々しさみたいなものを想い、見るだけで自身に落とし込んだことがなかった。

教わってみたらもっと字や、祖父たちの姿勢から受け取れることがあったかもしれない。

指の先まで心行き届くようなのびやかな祖父の字、これまでにもらったお守りのようなたくさんの手紙の字を時々見返して、日々、みなさんにお便りで字を書かせてもらえることに感謝が募る。

真っ青な空にでんと陣取る夏の雲。

季節は少し進んで、子どもたちの習字は「おおぞら」「満天の星」に書きかえられた。

小西 紗生

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