対 話 - 督田 昌巳 [ 後 編 ] -
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モノづくりと社会との接点。
もしそこに『職業』と『人種』のような分岐点があるのであれば、木工家 督田昌巳さんは後者になります。
「人の心臓が意識して動かしているわけじゃないように、モノづくりも作ろうとして作っているわけじゃないのかもしれません」。
世間のニーズや周りの評価を気にすることなく、ただ無心になって手を動かし作る日々。
その行動の原動力はどこからやってくるのだろうか。そこには、自分のことを精一杯生きる姿勢がありました。
- 督田 昌巳
- 鹿児島県を拠点に、木材を用い、器をはじめとする小物や家具を制作。事象を音で捉え、自然の中で偶然生まれた産物を作品として映し込む。時には朽ちた木を使い、錆漆で表情を付けた作品は、その木が生き抜いた過去の時間そのものであり、生きてきた証。何の作為もなくただ淡々と、微かな音に耳を傾けながら手を動かす。
音に耳を澄ます
アトリエ内にはたくさんの機械や工具が置かれており、刃物を研ぐ音、木工ヤスリで削る音、外から聴こえる鳥や虫の音、さまざまな音が響き渡っている。
いい道具は力がいらない
刃物は削り方より、引いたら削れることが大事。日本製の刃物は仕立てる準備が多いが、引く時に力がいらない。「下手な人ほど、いい道具を使わないといけない」。その考えは工具だけでなく、サーフィンの板選びや楽器選びにも通ずる。
一日一回、お茶を立てる
映画などで武士が茶道をしている姿や総合芸術としての奥深さに興味を持ち、西洋の足し算の美ではなく、日本の引き算のような美に惹かれ、本格的に習い始めた茶道。「昔は男の人が茶道を嗜んでいたので、もっと男性に興味をもってもらいたいです」。ギャラリースペース内には手作りの茶室を製作中。
日本文化の「道」から学ぶ価値観
「茶道はまずは型を覚え、その後になぜそうなっているかを理解していきます。茶道をはじめ、”道” とつくものは日本人の美的感覚や精神が含まれていて惹かれています」。 ”野暮と粋のはざま” を目指す中で、督田さんがいま興味あるのは華道。
木のなりたい姿へ
大きな欠けが印象的なこの器。
督田さんの作品作りは、木目を観ることから始まります。
「自分の意思で、良い木目ばっかり取ったりはしないです。良いところばっかり選ぶと、要らないところがいっぱいでてきます。じゃあ、要らないところをどうするかというと、捨てたりする訳ですよね。でも、それも全部 “いのち” だから、その木がなりたい姿にあわせて、形や染色を決めます」。
実用性の中の美しさ
見た目を良くするだけの理由で、木材を削り、加工をしたくないと話す督田さん。
「 “用の美“ を作ったのは名もない作家さん達です。美しく見せるために作るのではなく、日常的に使うための道具として作ったものが、美しいものであるということに惹かれます」。
カンナで削り、平面をだすことで、使う時に漏れが染み込みにくくなるなど、美意識は機能的な理由とともに細部に至るまで込められています。
自分が立っている地面を見て、空を見る
家とアトリエ、波があるときには海に出かけサーフィンを楽しむ日常。
どこか遠くの世界に刺激を求めるのでもなく、ただひたすら自分のやるべきことの深さを追求しているような姿勢に感じます。
督田さんの眼差しは、先人たちの精神性や感性に向けられる。
「昔の人は『ご飯をつくる』『洗濯をする』など、暮らしていくことに一生懸命で、周りと比較する機会も少なかったと想像しています。そういう暮らしの中でやらなきゃいけないことの中に、些細な幸せを自分で見つけ、名もなき職人さん達はものづくりをしていたんじゃないかな。どれだけ幸せだったかはわかんないですが、それで充分幸せだったと思うんですよね。つまり自分の立っている地面と、天との間で生きていた。周りと比較することなく、自分の好きなことに集中して、これからも作品を作り続けていきたいです」。
今回の展示には150点以上の見応えある器や小物などの作品群が並ぶ。この場所にしかない景色をぜひ体感して頂きたいです。
今回の対話を終えてスマホを触れば、無意識に周りのことが見えてしまう中で、比較しないで生きていくことは難しいことなのかもしれません。そこへ、少しでも豊かに生きていく術が ”自分のことを精一杯生きること” だと督田さんのこれまでの歩みから気づかされます。展示期間は6月27日(日)まで。遠方で来れない方は、オンラインでも作品を公開しておりますので、この機会にぜひご覧ください。
[インタビュー記事 前編]
聞き手・文 : 小野 義明

督田 昌巳 展
日程
2021年6月19日(土) – 6月27日(日)
期間中休みなし
作家在廊日
19日(土)
時間
13:00-18:00