鹿児島県でアトリエを構え、木材を用いてものづくりをしている督田昌巳さん。
ギターを弾き、古い車を直しながら乗り、波があるときにはサーフィンを楽しむ日々。
いつだって言葉よりも、見たり聴いたり、肌で感じることを大切にしてきたこれまでの歩み。
ひとりひとりが備わっている、感じる力について伺いました。
インターネットに常時繋がり、モノで溢れているこの世界。
いつでもどこでも欲しいモノが手にはいるという環境の中で、足りないから、何かを買ってくる。欠けているから何かをプラスする……。
それが当たり前と思えてしまう世の中で、督田さんは、「豊かさをモノに求める限り、それが満ち足りる事はない」と言います。
モノづくりの過程で大事にしているのは、頭で考えるのではなくこころで感じること。
少し前の時代は、何かわからないことがあったとき、あるはずのものがそこにないとき、自然に想像力でそれを補おうとします。何を補うかは人それぞれ。
「ものごとに対して感じる前に調べてしまうことは、もったいないことだと思うんです。言葉だけであれこれと “考える” ことに慣れてしまうと ”感じる”ことを止めてしまう気がしています。人間が幸せに感じる力って、モノの質量ではなくて、人の心にどれだけ響くか。昔の人は、日常の身の回りの些細なことから感じ取る力があって、ちょっとしたもので充分幸せに感じられたんじゃないかなと想像しています」。
「僕が感じるほんとに美しいものは、いつだって気がついたところより少し奥にあります。そして必ずどこかが壊れてる」。
督田さんの作品に用いられる木材には、朽ちやスポルテッド (木が倒れた後、バクテリアなどによってできる黒い筋状の模様) が入っている作品が幾つかあります。緻密な年輪、節や朽ちは、その木が生き抜いた過去の時間そのものであり、生きてきた証です。
「形そのものから何かを感じられる無垢なこころが大切で、形の歴史は考察すべきではあるけど評価の対象ではなく、考えるのではなく感じること。そういった力がモノにはある思うんです」。
6月19日(土)より開催される『督田 昌巳 展』。
督田さんの手により生み出された木の器や小物などの作品群が並びます。
みなさんは作品を手に取り、どんなことを感じ、そこから想像するでしょうか?
今回の対話を終えてアトリエの入り口にあった大きな蜘蛛の巣。「美しいから」という理由で、壊さずに自然のまま残していた督田さん。「豊かなモノがなくともこころを豊かにしてくれるたった一つのモノがあればそれでいいんだと思います」。督田さんの話や作品を手にすると、些細な日常の中に、小さな幸せや喜びはたくさん詰まっていると気づかされます。次回の後編では、木製の作品ができる過程について執筆を予定です。
聞き手・文 : 小野 義明
督田 昌巳 展
日程
2021年6月19日(土) – 6月27日(日)
期間中休みなし
作家在廊日
19日(土)
時間
13:00-18:00