減らすことが、世界を広げていく
yasuhide ono

いよいよ本格的にうつしきと隣接している離れの改装が始まった。
といっても、壮大なことをしようとしているわけではない。
今まで使われていなかった空間の余計なものを取り除いて、呼吸が深くなる“余白”をつくるための工事だ。
空間に余白があると、心の奥にも静かに余白が生まれてくる。
そんな改装のタイミングもあって、このところ「減らす」という行為を意識的に見つめている。

本格的に断捨離を始めてみると、物を手放すというより“意識を編集し直す”という表現がしっくりくる。
(禁断の聖域となっていた本棚から溢れていた本も段ボール10箱以上整理し、古道具や作品も飾れるようになった。着る頻度の少なくなった服数十着も弟や小田の元に嫁いでいった。)
棚から取り出したひとつひとつの物を前にして、本当に必要か、なぜ捨てられなかったのか、心の底に沈んだ感情を丁寧に掘り起こす。
手放せずに持ち続けていたものには、安心したかった過去や、後回しにしていた不安や、“いつか”という名の見栄が染み込んでいる。
断捨離とは、それらを棚卸しする“内的編集作業”だ。目の前の物を減らすことは、同時に心の中の不要な「説明」や「言い訳」を削ぐことにもなる。
捨てることで生まれた余白には、新しい選択や、新しい価値観が入り込む余地が出てくる。物を減らしたはずなのに、不思議と世界が広がっていくように感じるのはそのためだ。
気持ちも自然とスッキリする。

物を手放し、空間が澄みはじめると、「減らす」という行為の奥にある美学のようなものが見えてくる。足していくほど華やかになり、削いでいくほど強くなるものがある。
たとえば石でもそうだ。表面にまとわりついた土や曇りを丁寧に削ぎ落としていくと、内部の光が少しずつ顔を出す瞬間がある。表面を磨き続けていると、その石が本来持っていた色や模様、長い時間をかけて育まれた“核”のようなものが立ち上がってくるのだ。削ぐとは、失うことではなく、本当に大切なものが浮き上がるためのプロセスなのだ。
僕たちの暮らしも同じだと思う。
物を減らすだけでなく、
習慣を減らし、
情報を減らし、
執着を減らし、
心の表面にこびりついたノイズを削ぎ落とす。
その先にふと、これまで見えていなかった“自分の輪郭”が現れることがある。
引き算の美学とは、自分を小さくコンパクトにまとめるためではなく、本質をくっきりと露わにするためにある。

そんな「減らす」暮らしを続けていたときに行ったのが、醤油づくりだった。
大豆を煮て、小麦を炒って粉砕し、混ぜ合わせ、発酵させ、塩水を注ぐ。
あとは時間に任せて発酵を見守るだけ。
シンプルなのに、驚くほど深い。そして何より「自分の手でできる」という事実が大きな気づきだった。普段当たり前に買っているものを、何かの工程全部を想像することなく消費してしまうことが多い。
けれど、自分の手で混ぜ、香りを感じ、ゆっくりと変化していく色を見守ると、暮らしそのものの密度が変わる。自給とは、単に自立することではなく、世界との接続の仕方を取り戻す行為なのだ。
自分で作ると、
なぜか世界が「遠いもの」ではなくなる。
時間の流れが自分の生活とつながりはじめる。
その小さな革命は、身近な台所から静かに始まっていく。

醤油づくりが象徴的なのは、
「待つ」工程を前提にしていることだ。
18ヶ月間という時間、
微生物の働きに任せ、発酵のリズムに身を預ける。
人間の都合ではどうにもできない“自然の速度”がそこにはある。
現代の暮らしはどうしても速さを優先しがちだが、本当に大切なものほど、実は「遅い」。
心の曇りが消えるまでの静かな間。
発酵が旨味を深めるために必要な季節の移ろい。
遅さは欠点ではなく、深まりをつくるための条件だ。
待つことは、「時間に委ねる」という成熟でもある。
成果を急ぐのではなく、
過程に耳を澄ませる。
変化を焦らず、ただ見守る。
その姿勢は、
世界への最大の信頼表明でもある。

断捨離で意識が澄み、
削ぎ落とすことで本質が浮かび、
自給の実践で世界とのつながりを取り戻し、
そして「待つ」という時間の哲学に触れる。
これらはすべて別々の行為のようでいて、
実はひとつの流れの上にある。
“いまの自分に必要なものだけを残す”というやり方は、
暮らしに軽さをもたらし、
その軽さが深さと豊かさを生む。
移ろう季節や発酵の速度、
石の奥に宿る光や、
心の静まり──
どれも速さの世界では見えない景色ばかりだ。
減らすほどに世界が広がり、
削ぐほどに自分が露わになり、
待つほどに豊かさが育つ。
そんな循環が、いま静かに暮らしの中で育ちはじめている。

うつしきは功刀匡允展を終え、年内の展示は全て終了しました。
たくさんの方に足を運んでいただき感謝しかないです。
常設での営業はまだまだ続きますので、ぜひ足を運んでくださいね。
そして、ワタクシ yasuhide onoの展示が12月12日(金)より、宮城県古川市にある「いびつ」にて始まります。
店主の佐々木雄一と18歳の時に出逢ってからのことを考えると、人生とは本当に不思議なもの。
その巡り合わせの一つ一つのご縁の中に生きている。
平日ですが、初日に在廊しますので、是非遊びにきていただけると嬉しいです。
さぁ、今週も最高な一週間としていきましょう!
ハッピーラブレボリューションな一日を♡

