中国杭州で活動する任飢餓・宥子夫妻の手仕事により生まれた衣のご紹介。
シルクといっても加工された布地の表情は様々で、
こちらはさらっとした風合いで普段着にも特別な日にも着られる一着です。
表面上に見えるシルエットや細部に渡る細かなアクセントとなるステッチの美しさは勿論、
特筆したくなるのは裏側です。
これまで衣服の裏地をまじまじと見ることがほとんどなかったのですが、
彼らの衣服に出逢って裏の大切さに気付かされました。
裏側によく見られる飛び出した縫い合わせ部分、かがり跡、
そういった当たり前にあるものがないのです。
あえて残される裏側の面白さも魅力ですが、布をはぎ合わせた部分はすべて袋縫いされ、
仕上げは手縫いでありながら一定で均一な心地よさが隅々に及んでいます。
裏と表とが隔たりなく、どこもかしこも美しく処理がしてあります。
これは目だけで感じるものでなく、袖を通したときに肌が気づいてくれます。
きれいな仕上げによって肌に伝わる違和感だったり引っ掛かりがありません。
ただただ素材の持つ肌触りを直接に感じられる。
敏感で肌が弱い方にも心からおすすめしたい一着です。
また裏側に見られる金茶色部分は二種の染めにより現れたものです。
泥染めと、下地には中国の伝統的な草木染めの一種で゛紅露゛という芋を使った染色が施されています。
日本では沖縄で作られ、漢方の一種でもある芋の品種で、
ソメモノイモとも呼ばれており切ると目が覚めるような橙色の断面を持つ植物です。
こちらを染料にして十回以上刷毛で染め重ねられます。下の写真はソメモノイモのみで染められた色。
手をかけられた分堅牢性にもすぐれており、洗った時の色落ちが少ないのも特徴です。
柿渋にも似ていますが、芋特有の発色の良い色味は肌にとても馴染みやすく、
どこかお坊さんの袈裟の色にも通じる高貴な色にも見えます。
この色に泥染を合わせることで奥行きのある独特の存在感が生まれています。
シルクと聞くとお手入れを懸念されるかもしれませんが、
あえて洗濯機で洗っていただくことを推奨されています。
きれいに折りたたんで手洗いすると折り皺部分の跡がのこることが稀にあるようで、
整えずラフに洗うことで均一に行き渡ります。
以前は近所の川で水の流れに任せるように衣服を洗っていた文化が思い起こされる、
昔からの伝統的な技術と任飢餓・宥子 の緻密なデザインが相まった古今が交わる衣服です。
任飢餓は衣服の制作に加えご自身で蒐集された古道具のギャラリーを営まれています。
彼の感覚に響く質感、ものとものとの独特の間合いが衣に置いても通じています。
永く永く着て彼らの衣服がいつか古着としての味わいが深まってくるのも愉しみのひとつです。
おすすめの併せ
一年を通してどの季節にも着られるシルクワンピース。
冬はウールニットのたっぷりとした羽織であたたかく。