うつしき

うつしき

日本の手仕事

COSMIC WONDER

Hand-spun Japanese wool hand-woven haori
日本の羊毛を手紡ぎした手編みの羽織

手編みのニットと聞くとたっぷりと空気を含んだふわふわの柔らかさを思い浮かべる方が多くいらっしゃるかもしれません。
しかしこの手編みの羽織を手にすると覚えのある手触りとは全く違う、しっかりとした張りと安心感に驚かされます。
実はすべて手作業で生みだされるからこそ実現できる風合いです。

表情豊かな美しい手紡ぎの糸は牛島加奈さん、
手編みとは信じがたい精密な編みは児玉知子さんの手によるもの。
北海道羊丸ごと研究所で大切に育てられた羊の毛を染めることなく本来の毛質ままに使われています。

手洗いにより油分を適度に残して紡がれた糸は、保温性があり、編まれた時にしっかりと絡みあい美しい形を保ってくれます。

そして纏った時に身体に負担のかからない軽さは手紡ぎ糸ならでは。
何も羽織っていないような軽さでいてじんわり芯を温められている不思議な感覚です。

私自身、ライフワークとして糸を紡ぎ織ることを学びすすめており、この一枚の衣に宿るエネルギーみたいなものが肌に伝って圧倒されます。

糸紡ぎは、土地の空気をまるごと含んだ羊の毛を手にいれるところからはじまります。

産地によっての違いはもちろん、
同じ牧場や種類でも一頭一頭の個があり、性質や性格も異なります。
例えば運動するのが好きなものとのんびり屋の羊だと動きが変わり毛質にも影響します。
また、私たちと同じように産毛のような柔らかい毛と、身体を守って頑丈になった部分の毛とでは肌触りが全く違います。

そんな中から選んだ羊毛を根気強く手洗いをしていきます。
羊毛には油分が蓄えられており作るものによって洗いの加減を調整します。
羊毛はマイナス60℃でも凍らない性質があり、極寒地で過ごす人々を守ってきました。
含まれる油分には外界から保護をする役割もあるようです。

写真は洗毛後の羊毛、羊によってまったく雰囲気が変わります。

牧草や汚れを取り除いたらだんだんにあらわれる風合い。
陽の光で水気をとって乾いたら毛並みを梳いて整えやっと糸へ紡ぐ作業に入ります。

糸づくりだけでも途方もないたくさんの工程を経て出来上がります。

そして日本の民族衣である着物をつくるように技術を持つ者へと工程ごとに手渡される日本独特の分業で完成された羽織。

道具も技法も様々で、世界を見ると同じ機能を持ったものを生み出すにしてもその地の風土ならではの方法で受け継がれています。

COSMIC WONDER からの紹介文には”この編み物の表情はまるで昔のいづくにかの漁村や農家で使われていた原初的な毛衣を髣髴とさせる”とありました。

長い歴史の上に日本の地で育まれ、積み重ねられた幾つもの事象が一枚の衣に込められているようにも思えます。

 

おすすめの併せ

農夫のドレスと題された衣
合わせて纏うと放牧の景色が浮かぶよう。