あれもこれも、全部やってみる
yasuhide ono

なんだか、いろいろなことが怒涛のように過ぎ去っていった一ヶ月ちょっとだった。
北海道へ行く前に前回のブログを書いていたので、そこから今日までを振り返ってみると、ずいぶん遠くまで来たような気もするし、つい昨日のことのような気もする。
北海道では、人生二度目のフルマラソンを走った。
42.195kmを走り終えたあとの身体の疲労とは裏腹に、北海道で過ごした時間はとても心地よく、滞在している間からこの大自然の中で暮らすのもいいなと本気で考え始めていた。
以前から二拠点生活というものには興味があったのだけれど、今回は少し具体的だった。
どこかへ旅行していいところだなと思うのとは少し違う。
朝起きて、走ったり、仕事をして、ご飯を食べて、眠る。
そんな普通の生活を、ここでもやってみたいと思った。
18歳までを北海道で育ったことも関係しているのかもしれない。
遮るものの何もない壮大なパノラマを眺めていると、懐かしいというより、身体のどこかが知っている場所に戻ってきたような感覚があった。
土地が変わると、身体の感じ方も、時間の流れ方も少し変わる。
その違いが面白かった。

福岡に戻ってからの9月も、なかなかのものだった。
イベントがいくつも重なり、娘二人の誕生日もあった。
うつしきでは川井有紗さんの展示。
根っこにある大切な部分を共有している一人の表現者であり、人間としての魅力が満載の彼女の展示からは、毎度ながら受け取るものが多い。
作品を通して見えてくるものだけではなく、彼女がどう生きて、どうものを見ているのか。
そういうところまで含めて、毎回刺激をもらっている。
喫茶室でのmilletの樹里さんの食事会も毎度ながら最高だったなぁ。
樹里メシの大ファンである私たち家族からすると、もう至福の時間なのです。


そして、この展示に合わせて9月の新月から新しく始まった「むすびろ」では、笑達さんの一枚の絵と、有紗さんが奏でる音楽を展示した。
一枚の絵だけを飾る。
そう考えると、なかなか大胆な試みでもある。
空間に置くものが少ない分、その一枚そのものの力が必要になる。
でも、笑達さんの絵には、それを受け止めるだけの力が間違いなく宿っていると思った。
そこに有紗さんの音楽が加わる。
ものを展示するだけではなく、音や空間も含めてひとつの時間をつくってみる。
まだ始まったばかりの真新しい場所だからこそ、これまでのうつしきとは少し違うことも試してみたい。
そんなことを考えながらの、むすびろの最初の展示だった。

そして展示が終わったその日のうちに撤収。
そのまま山香デザイン室の小野さんの車に什器や作品を積み込み、徹夜で京都へ向かった。
翌日からは「野良藝」の展示設営。
初めての四人での展示。
初めて使う空間。
当日の朝からしか搬入できないという条件も重なって、最後までどうなるのかまったくわからなかった。
時間ぎりぎりまで設営をして、なんとか初日を迎える。
ひとまず無事に始まったことに安堵したのも束の間、4人で借りた一軒家に戻ってからも話は尽きない。
展示のこと。
これからのこと。
くだらないこと。
夜な夜な遅くまで話して、当然のように寝不足になる。
そんな4泊5日だった。
連日、本当にたくさんの方に足を運んでいただいた。
終わってみれば、展示自体は大成功だったと言っていいのではないかと思う。
「野良藝」は、今回一度きりの展示ではなく、これからも継続的な運動として続けていきたいと思っている。
次の開催場所はまだ決まっていない。
けれど、またどこかで4人が集まって、何かをつくることになるのだろう。
そういう先のわからなさも含めて、面白い。
京都にいたのは、ほんの数日前のことなのに、もうずいぶん昔の出来事のように感じる。
展示をつくって、ものを並べて、人と話して、ご飯を食べて、また次の日の準備をする。
気づけば帰る日になっていた。

こうして書き出してみると、自分でもよく動いているなぁと思う。
それが不思議と嫌ではない。
むしろ、こういう状況はけっこう好きだったりする。
仕事だけをしているわけでもない。
遊びだけをしているわけでもない。
家族との時間もあるし、友人と山にも登る。
その合間に展示があり、移動があり、本を読む時間があり、ひとりで考える時間もある。
どれかひとつに人生を寄せていくというより、いろいろなものが同時進行している。
そのほうが、自分の身体には合っているのかもしれない。

先日は佳王理さんとまりりんと一緒に英彦山へ登った。
仕事の話をするでもなく、しないでもなく、ただ山を歩く。
息を切らしながら話したり、景色を眺めたり、くだらないことで笑ったりする。
そういう時間があることで、また仕事に戻ったときの感覚も少し変わる。
仕事と遊びを完全に分ける必要なんて、そもそもないのかもしれない。
仕事の中に遊びがあり、遊びの中に仕事の種がある。
人との出会いも、山を歩くことも、旅をすることも、本を読むことも、全部どこかでつながっている。
そんな合間も本は大好きで、変わらず毎日のように読んでいる。
最近特に面白かったのが、凪良ゆうの『多類婚姻譚』。
これがものすごく面白かった。
夫婦とは何なのか。
家族とは何なのか。
恋人やパートナーとは、そもそもどういう関係なのか。
「こういうもの」と当たり前のように思っていた関係性を、少しずつ揺さぶられていく。
正解を提示されるというより、「あなたはどう思う?」とこちら側に問いを投げられているような感覚があった。
人と人が一緒に生きるということは、思っている以上に複雑で、だからこそ面白い。
家族だからこうする。
夫婦だからこうある。
恋人ならこうだ。
そんなふうに決められた形だけでは説明できないものが、実際の暮らしの中にはたくさんある。
本を読みながら、自分自身のこれまでの人との関係についても、いろいろと考えさせられた。

人生は、思っているより短い。
だからといって、何か大きなことを成し遂げなければならないわけではない。
今日会いたい人に会う。
行きたい場所へ行く。
読みたい本を読む。
身体を動かす。
好きなものをつくる。
面白いと思ったことをやってみる。
家族の誕生日を祝う。
山を歩く。
知らない土地で少し暮らしてみる。
そういうことを、ひとつひとつちゃんとやっていく。
その積み重ねが、結局のところ自分の人生になっていくのだと思う。


今週末には、石原稔久展とコトツキ、による食事会がある。
稔久さんとは、宮若市へ移住したばかりの頃からの付き合いになるので、もう干支が一周するくらいになる。
それだけ長く付き合ってきた人と、今になって初めて展示というかたちで一緒に仕事をする。
昔から知っている人と、時間が経ってから新しい関係が始まることがある。
それが面白い。
その翌々週には、huuhuuのアイちゃんによるタイやアジアの民藝品が並ぶ「trival market」を4日間開催する。
アイちゃんとは、うつしきを始めたばかりの頃にチェンマイで出会った。
それから、もう10年以上になる。
そんなアイちゃんとも仲の良いTANEが喫茶で来てくれることになっている。
10年以上前に旅先で出会った人と、今こうして福岡で一緒に何かをする。
そのときには、そんな未来がやってくるなんてもちろん知らなかった。
いつ、どこで出会った誰かと、何年後かに何かを一緒につくることになるのかなんて、わからない。
だから、人との出会いは面白い。
そのときには何でもないように思える出会いが、時間をかけて少しずつ形を変えながら、後になって自分の生活の中に戻ってくることがある。
そんなこんなで、あっという間にまた一ヶ月が過ぎていくのだろう。

たぶん、これからもこんな感じでいい。
仕事も遊びも、家族も、人との時間も、旅も、本も、身体を使うことも。
どれかを選んで、どれかを諦めるのではなく、
その時々で、自分が面白いと思うほうへ進んでいく。
そんなふうに、少し欲張りなくらいに日々を過ごしていたい。
怒涛のように過ぎていった一ヶ月。
振り返ってみると、ずいぶんいろんなことがあった。
でも、そのひとつひとつを思い出してみると、
どれもちゃんと、自分の生活の中にある。
そんな日々が、今はけっこう気に入っている。
