うつしき

うつしき

対 話 - COSMIC WONDER [ 後 編 ] -

“藍染め” と聞くとどんなイメージを持つでしょうか。
 
国を代表する色でもあり、昔から日本になじみのある『藍』。
 
藍は身近な染色材料として古くから使われ、その色を纏うため先人達は植物から青を探し出しました。
 
「藍染は、発酵が重要なんです」
 
三重県松阪市で土作りから始まり、藍草の栽培、すくも作り、藍建て、藍染。一貫して藍と向き合い続けている『紺屋 仁』さん。
 
今回の展示で『COSMIC WONDER』の衣の藍染めを担当しています。
 
室町時代から続く伝統的な正藍染を知るべく、『COSMIC WONDER』主宰の前田さんと共に、一着の衣の染色ができるまでの想いについて伺いました。

COSMIC WONDER
1997年、 前田征紀を主宰として設立。東京・南青山に「Center for COSMIC WONDER」を開設、活動と発表の拠点とする。「精神に作用する波動」としての衣服、美術、書籍など多岐にわたる表現領域により展開。2016年より京都・美山の重要伝統的建造物群保存地区の古民家と工場跡を製作スタジオにする。
https://www.cosmicwonder.com/
北村仁・大西美由紀 (紺屋 仁)
土づくりから始まり、藍草の栽培、すくも作り、藍建て、藍染。一貫して藍と向き合う事で、多様な時の流れ・自然のプロセスを感じながら、一つの藍色が生まれてくる不思議。その不思議に近づける喜びが、私達の活動の根底にあるのだと感じております。すくも作りは徳島に修行。藍建て・藍染は日本古来の正藍染を栃木にて学ぶ。

100日もかけて藍葉を発酵させ、藍染めの原料となる『すくも』 。『紺屋』とは江戸時代に染め物屋をさした言葉。

土作りから行う、七反という圧倒的な広さの藍畑。自然栽培で藍を育て、すくも作り、四季を通しての作業を終え、ようやく藍染めができる。

発酵が生む、一期一会の彩り

藍草から作る『すくも』と広葉樹の『灰汁(あく)』だけで建てる藍。日本の植物由来の藍は、藍分が3~4%と少ない上、発酵に手間が掛かり、繊細な手仕事の上で成り立っている。
「藍染って、途中でいろんな薬品を加えていても『天然藍』と言えてしまうんです。そもそもの原料が植物ですから。でも、僕達はそれをやりたくない」。

藍染と一言でいっても、その諸作業の実態をあまり知らないという方も多いはず。

『紺屋 仁』さんが行っているのは、化学薬品を一切使わない、自然界からとれる原料のみを用いる “本建て正藍染 (しょうあいぞめ)” という染色過程です。
日本の藍は第二次世界大戦中、食糧増産の目的に田畑を使用するため、国策により栽培を禁止。藍染めは、徐々に大量消費の時代の波に押され、化学染料や合成染料に取って代わる。現在、無農薬栽培で藍を育ている藍師は、『紺屋 仁』さん含め全国でも数軒のみ。
『正藍染』という言葉は、いわゆる『藍染め』と区別するためにあります。

藍染とは、藍で染めたものすべてを指します。その原料が石炭由来の合成藍であろうと、化学的に作られたものであろうと、藍を原料にして染めればすべて藍染めです。

『正藍染』とは、『すくも』を『灰汁』で醗酵させる、伝統的な藍建て(本建て)による藍染めの事を言います。

特徴として糖分等 (日本酒・蜜等) を入れない事で還元させる事なく、微生物の発酵により染め液を作ります。

結果として色落ち・色移りのしづらい、美しい色が表現できます。

生きているもので染める難しさ

水に溶けない藍を、溶けるように変化させ、染め液を作る藍建ての様子。藍草の葉を発酵させた『すくも』を、堅木(ナラ、クヌギなど広葉樹の材木のこと)を燃やした木灰の『灰汁』を使って自然発酵させる『本建て』。その色とさまは、まるで小宇宙のよう。
土作りから始める藍染めの生産過程を伺うと、確かな手仕事の背景には、どれだけの時間と沢山の試行錯誤を重ねてきたと想像に難くありません。

微細な色味の違いや、その年々の植物の育ち方、制作を行う日の水や空気の違い。自然は日々移ろうもので、そもそも合成染料のような確かなレシピがあるわけではありません。

繰り返し根気強く、植物と大地と、自分の感覚を一つずつ確かめる、まだ見ぬ世界に分け入りその奥深さを掴みたいという情熱は、どこから湧いてくるのだろう。

「何回やっても、同じ色を出すのは難しいです。なかなかいうことを聞いてくれないんですよね。でもそれが、面白い。まだ挑戦できる余地がすごい残されていると思うから」。

「薬品などを一切使っていませんので、役目を終えた藍の染液は、土に還すことができます」。使い終わった廃液は薄めて畑にまくと、防虫、紫外線予防に。本建て正藍染で出来上がった藍染自体にも、抗菌効果や布を強くし紫外線などから身を守るといった、長きに渡り人々の暮らしに欠かせない歴史がある。

本能的に触れたくなるもの

5月1日(土)より開催される『COSMIC WONDER うすはなそめ 展』。

今展示には、麻や絹、有機栽培綿の、『COSMIC WONDER “Days of light”』 の衣をうすはなそめにした作品が並びます。

それぞれに深く古から培われた技法による染色。伝統的な手仕事を今の時代に残すことは、日本のものづくりを守りたい、いいものを育て、未来に繋いでいきたいとの想いから。

『COSMIC WONDER』の衣服を通じて、脈々と受け継がれてきた希少な手仕事、自然の色が持つ力をぜひご覧いただきたい。

今回の対話を終えて短い時間でしたが、こうして作品ができる過程を見させてもらうたびに、いかに自分がその背景について何も知らないかと痛感することばかりです。「年々山が荒れていき、広葉樹が少なくなり、良い木灰がとれなくなっています。古来から続けたことが今後はできなくなるかもしれません (紺屋 仁さん)」。いま着ている衣服が、どういった背景で作られ、その生産過程は自然環境にどのような影響を与えているのか。環境に優しいものは自分にも循環するように、作り手の想いに馳せながら、心地良い衣服を選んでいきたいです。
聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

COSMIC WONDER 展
「うすはなそめ」
 
麻や絹、有機栽培綿の、COSMIC WONDER “Days of light” の衣をうすはなそめにしました。
 
うす泥染めは奄美以南に自生する常緑高木の福木を煮出した染料と泥で染める。通常の泥染は車輪梅の染料を使うが、うす泥染では福木の染料を用いた。泥は奄美大島の150万年前の古代地層による鉄分豊富な泥田の泥。福木染め、泥田で泥染め、上流での川濯ぎ、福木染め、泥田で泥染め、水晒し、、と染め作業を繰り返す。染め上がる布の具合により、工程を変えたり、染め重ねる回数が変わるという。泥染めは奄美大島の自然の恵みと長年培われた技法と技術と時間を要する。奄美大島の金井工芸による。
 
うす藍染めは終わりかけの薄い藍甕で、何度も染め重ねる。藍甕に衣をつけ、水に晒し、天日干し、藍甕にまた衣をつけ、水晒し、、うす藍染は通常の藍染めより、下晒しの処理、染める回数も多く、大変繊細な仕事。うす藍染めをされる三重県の紺屋 仁の仕事は、藍染めの染料であるすくも作りからはじまる。自然栽培で藍を育て、すくも作り、四季を通しての作業を終え、ようやく藍染めができる。紺屋 仁は藍染に正藍染めの技法を用いている。
 
日程
2021年5月1日(土) – 5月9日(日)
期間中休みなし
 
時間
13:00-18:00