うつしき

うつしき

対 話 - つむぎ / 野草宙 -

「野草」と聞くとどんなイメージを持つでしょうか。

「道端に生えている厄介な草」「食べたら苦そう」などいろいろなことを想像されるかと思います。

“野草を知ると、世界がまるっきり違って見える”

花を慈しみ育てながら、野草をとりいれた暮らしと生命力を伝える活動をしている『野草宙 (やそうそら)』の澤村玄道さんと澤村日菜さん。

お二人のこれまでの歩みは、いままで見過ごしてきた身近な野草が、こんなにも魅力あるものなのかと気づかせてくれます。

野草は地球のことを知っている


福岡・博多の閑静な寺町通りで『つむぎ』という名の”花アトリエ”を営む澤村日菜さん。

日菜さんが野草の力を感じたのは、自然栽培で草花を育て始めた頃。

できるかぎり自然の状態で花を育てていく中で、気づきを得たといいます。

「草を刈らずに生やしていると、時間が経つほど土が肥えていき、生態系が豊かになっていきました。刈った草も虫たちの住処となり、朽ちていくと、小さな生きものたちが枯れ草などをしっかりと分解し、土へ還してくれます。地上の生態系が豊かになるのと同時に、土の中の生態系も豊かになり、葉っぱや花の養分にもなり、小さな循環がうまれます。」

糸島で自然農を学んだことは、これまで培ってきた園芸の知識が大きく変化した出来事だと振り返ります。

自然農の根底にあるのは、土、水、草花、野菜、虫、人間など、すべての“いのち”のあるがままの姿に寄り添い、従うこと。

虫や草を敵とせず、共存している“いのち”とみなします。

その土地の循環をなるべくこわさないように、使うのは少しの道具と人の手。あとは、ただただ自然に委ねるのみ。

小さな生きものが生み出す音や匂いを感じながら植物を愛でる暮らしは、心地良いと話してくれました。

草に楽しむと書いて「薬」


野草と向き合うようになった大きなきっかけは、2012年に全身アトピーが発症した時期。

通院中に漢方を始めてみるが、身体にあわなかった。

“おいしく飲めるものじゃないと続かない”

そう思い立った玄道さんは、アトピーに効く野草を調べ、配合を変えながら、手探り状態で野草茶をつくる日々。

おいしく飲める野草茶をつくるために、煮出す時間、煎り方、配合など、試行錯誤がつづき日菜さんに毎日味見をしてもらっていたといいます。

野草を日々の暮らしの中にとりいれてから、身体に大きな変化が生まれたそうです。

「患っていた全身アトピーだけでなく、花粉症や、目の病いも徐々に回復していきました。野草は、西洋薬のような即効性はありません。自然と触れ合い、野草摘みをしたり、野草の生命力を日常に用いることで、身体に変化をもたらしていきます。草は農業や庭先でも厄介者扱いされ、生やさないことが良しとされていますが、もとをたどれば作物の原種だったり、ひとつひとつの草には名前や薬効があり、文化と歴史があるんです。」

自らの実体験をもとに、『野草宙』として、日菜さんと共に活動をはじめるることとなりました。

雑草という名の草はない

5月2日より開催中の『陶芸家 市川 孝 展』。

二日間、野草宙さんの野草茶会、つむぎさんのお花の会を撮影もかねて近しい方のみで開催。

うつしき近くの山に野草散策をかねて採取にいきました。

澤村さん達との山巡りは、なんとなく生えているような野草にもちゃんと役割があり、意味があって生えてきていることがわかります。

例えばスギナは、カルシウムやカリウムなどのミネラルが豊富なことで知られています。それは土にそういったミネラルを補給する役割を持っているからです。スギナが生えている畑にはそういったミネラルが必要なんだなと判断ができ、刈ったスギナも土に還してあげることで地力が上がっていきます。

七草粥をはじめ、野草をとりいれた生活は昔から暮らす人にとって欠かせない知恵だったはず。現代は人の暮らし方、働き方とともに家族の形も変わって、親から子へと伝わっていくべきことも、知られないままどこかで失われつつあるのかもしれません。

「セイタカワダチソウは厄介者の草といわれているんですけど、実は漢方として根っこが使われていたりします。葉っぱの部分を煮だして、お風呂に入れると、アトピーにも効くと言われていますね」(玄道さん)。

お二人の野草をとりいれた暮らしは、なんだかとても軽やかにみえ、そう話す明るい笑顔が、何よりの充実感を物語っています。

野草をもっと身近に

「野草茶は、二度と同じ味ができないのがまた良いんですよね」と話す玄道さん。

近くの山で採取してきた野草で淹れたお茶は、太陽の光と大地の栄養をその身いっぱいに行き渡らせたその力が、体内に染み込むような味わい。

日菜さんは市川さんの器を用いて、自由に野草を生ける。

それぞれ個性が違う花の気持ちに寄り添いながら、愛情を込めて生けた花の表情には、ぐっと輝きが増します。

野草をとりいれる前といまでは、肉体的にも精神的にも生まれ変わったみたいに違うと語るお二人。

「野草も生き物だから個性があります。ひとつひとつの草には名前や薬効があり、旬なものを生活にとりいれることで、自然に感謝するようになります。季節のものに対して、敏感であることや、喜びを感じることは、精神的にも良い作用を及ぼすと思いますね。そして季節もの、旬のものを体に取り入れることによって、自分の中でも、巡ってる感じがしています。」

野草は、小さく静かに巡る循環を教えてくれます。生命力あふれる野草には、たくさんの良いことをもたらす計り知れないパワーがあるのだと。

今回の対話を終えてお二人と巡った野草摘みは、視点を変えるとこんなにも世界が広がるものかと、野草の奥深さを知りました。いままで見過ごしてきた身近な野草に目を向ければ、生きるために必要なものはそこに揃っているのかもしれません。
聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

陶芸家 市川 孝 展
お店は全日程アポイント制での開催。
オンラインでは毎日点数を決めて掲載予定です。
日程 : 2020.5.2 – 17
オンライン掲載は5月18日11:00までとなります。
場所 : うつしき