うつしき

うつしき

対 話 - 髙倉 優仁子 -

料理というのは「理(ことわり)を料る(はかる)」と書きます。

自然を手の内に扱い、素材の本質と向き合うことで自我が落ちていき、調和がとれるとおいしさに繋がる。

一皿にうつろいゆく土地の恵みを紡ぐ髙倉優仁子さん。

いくつもの巡り合わせや出来事、日々の中で記憶に刻まれていった美しい風景を手繰り寄せ、一皿に込められた想いについて伺いました。

景色のなかに


世の中の大きな流れとしてある、効率よく大量に作ること。

アルバイトで働いた飲食店では、想像していた料理の世界とは少し違っていた。

その経験が飲食に対して苦手意識を生み、別の職に就きます。

そこから時が経ち、東日本大震災をきっかけにそれまでの固定観念が壊され、興味を抱いていた料理について改めて学ぼうと、マクロビオティックの料理教室に通います。

「ご飯屋さんするね」

友だちとの何気ない会話の中で発した言葉。

福岡県朝倉市杷木の農村の景色に囲まれながら、地元の素材を使ったおやさいごはんの店『hodagi』がオープンしたのは2013年のこと。

暮らしを作っていく過程で生まれた”ここで何かをやりたい”という想いを形に、実家の敷地内に建てられていた納屋を改装。

髙倉さんが紡ぐ繊細な料理に惹かれ、県内のみならず遠方からも人が訪れます。

「住んでいると気付かないことでも、視点を変えるとその場所の良さが再発見できたりします。道端や裏山、庭に茂る草花に全て名前がついていることを知りました。半径100メートルの散歩でさえも、楽しくて感動でいっぱいになります」

日常と、ともにある特別


2017年、福岡県朝倉市は九州北部豪雨災害に見舞われました。

山は崩れ、倒木を含む土石流がお店を含む集落一帯を押し流した。

私たちはみんな、食べることで生きている。生まれてから今日までずっと、数え切れないほど食事をしてきた。おいしいねと笑顔で語り合う日も、悲しみ悩んで何も喉を通らない日もある。

不確かな未来へ向け、それでも願わずにいられない。大切な人たちと共に食卓を囲むことのできる日常を。

つないでいきたいもの


日々、何かを選択しながら生きている。

食べることも、器を選ぶことも、何かを飾ることも。

それらがどのようにして作られたのか、背景を知りたいという気持ちが年々強くなってきているという髙倉さん。

大事にしているのは、場所問わずに農家さんのもとへ足を運ぶということ。

安心してできるものか、自分の目で確かめ野菜を仕入れる。その食材からイメージをめぐらせ、目の前の一皿に表現していく。

「いろんな農家さんの畑を立ち寄ることで、旬の野菜もわかるし、雑談から料理のヒントが浮かぶことも。野菜作りに対して好きが溢れている方の畑は、見える人には草むらに見え、心地よい風が吹いている気がしています」

直接言葉を交わせる顔の見える関係が生み出すものは、お互いにとっての信頼関係。

以前感じていたような飲食に対しての違和感は、ここにはもうない。

その土地ごと、まるごとおいしくいただくということ。

「生きて身体に馴染む野菜なんです」と、ひとつひとつ背景にある物語を髙倉さんはうれしそうに伝えてくれる。

食べた記憶は心のなかで思い出す

5月2日より開催した『陶芸家 市川 孝 展』

「市川さんと『野草宙』澤村さんご夫妻がうつしきさんに打ち合わせに来てあった時、偶然居合わせたことでご縁をいただいたのが始まりでした」

台所に立つ髙倉さん。市川さんの器を用いて、春から夏へと変わる頃の野菜をみてさわって、あれにしよう、これにしようと料理を考える。

料理人目線の器との向き合い方。ひとつひとつの素材を丁寧に生かした野菜ごはん。食べた後、気が穏やかに湧き出てくるような、からだとこころに染み渡る食卓。

「その時々で目の前のことに打ち込んでいるうちに、自然といまにたどりついたような気がします。これからも、食を通じて喜びを循環していけたら」

想いを込めて作った料理、そこに集う人達の笑顔、そしてお気に入りの器。

おいしさはそれぞれの要素、それぞれの物語がゆるりと混ざり合って作られていく。

今回の対話を終えてものが溢れる時代に、何を大切にするかは人それぞれ。髙倉さんの料理を作る過程に触れていると、日常の「暮らし」そのものが生きる活力になるような、今日という日が特別なものに思えてきます。
聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

陶芸家 市川 孝 展
お店は全日程アポイント制での開催。
オンラインでは毎日点数を決めて掲載予定です。
日程 : 2020.5.2 – 17
オンライン掲載は5月18日11:00までとなります。
場所 : うつしき