これまでに似顔絵を描いてもらったことはありますか?
様々な感情を受けとめ、その人が持つあるがままの魅力を描く絵描き 笑達さん。
目の前の似顔絵に込められた想いについて伺いました。
笑達さんが人の顔を描き出したのは、京都芸術大学でデザインを学んでいた19歳の頃。
ある日クレパスで描いたボブ・マーリーのCDジャケットの顔を先輩に見せたら、「せっかくだったら身近な人を描いてみなよ」と言われたことがきっかけで、似顔絵を描き出すことに。
その絵を先輩に見せると、「路上で描いていこう」と誘われ始めたのが路上での似顔絵描き。
「路上で描いていると普段出会わない人との出会いや、その人が見せる表情に興味が湧いたんです。最初は絵を描くのに集中して、お客さんとあまり話せず、心で通じ合っている関係になりづらくて。ある日実験的に、よく喋る友達を連れて行き、その子とお客さんが話しているのを描くということをしたんです。お客さんはいつもよりリラックスしていたんですけど、その子とお客さんが仲良くなって、僕だけ蚊帳の外のような感じがして。(笑) せっかく縁がある時間だからこそ、目の前の人の話を聴きながら、僕が感じたその人の一番いい表情を描きたい。それは描き出した頃から、無意識に近い感覚で取り組んでいました」。
路上での経験から、今に至るまで順風万風に見える人生。
美術大学に通っていた当時は、個性的な周りの人達と比較し、”自分がない” ことがコンプレックスだったと振り返る笑達さん。
「もともと小さい頃から性格的に争いを好まない性格で、周りのみんなの方が個性や自分というものを強く持っているように感じていました。作品をプレゼンする授業では、『Aくんの意見、たしかにそうだな』と納得する自分もいるし、Bさんがまったく別の意見を言った際には、『たしかにそれもそうだな』と納得して、自分の意思がないように思えて、悩んでいた時期もありました」。
もっと自分自身を持たねばと感じていた笑達さん。自分探しの旅として、約2ヶ月間をかけて四国八十八ケ所、お遍路の旅へ向かいます。
1日に50キロほど歩いたこともあった旅路。
“お遍路での出会いとご縁を何か形に残したい” と想った笑達さんは、お遍路をする途中から、似顔絵を描いて渡しはじめました。
「やり遂げたということが、ひとつ自信になりました。無理に ”これが自分だ” と境界線を引かなくても、自分なんてなくても、やりたいと思ったことは、素直にやればいい。そう考えるようになりました」。
「あるとき誰かに、”笑達さんは透明だね” と言われたことがあります。その時は無個性ということを指摘されているのかと思っていました。でも、透明ということは、人の表情や自然の美しさを感じた時に、そのまま映し出すことができることでもあります。自分がないというより、違う人の意見を肯定できる力が、他の人より強いんだなと、気付かされました。そのことが自分の持っている性質で、役割なんだなと」。
9月18日 (土)より開催される『笑達 川井有紗 夫婦展 “たまきはる”』。
在廊日には似顔絵会を開催。
似顔絵で描いているものは、笑達さんが見たその人の美しさです。
何気ない日常、大切な記念日、あなたのあるがままの魅力を描いてくれます。
いまこの瞬間にしかないカタチのない時間を、似顔絵として残してみませんか?
今回の対話を終えて「個性がないといけないというより、その人が存在するだけで個性だと思うんです。無理に個性的である必要もないし、素直に行動して、その人が瞬間瞬間を楽しみ続ければ、それは素晴らしいことだなと思います」。笑達さんは、2020年より地元和歌山に暮らしの場を移しました。少しずつ土地を拓き、”いろどり山” と自ら名付けた山で暮らしています。次回は、いろどり山での暮らしから夫婦展についての想いを執筆予定です。
聞き手・文 : 小野 義明
笑達 川井有紗 夫婦展
たまきはる
日程
2021年9月18日(土) – 9月26日(日)
期間中休みなし
作家在廊日
18,19日 / 25,26日
時間
13:00-18:00