うつしき

うつしき

夏休みのこと

みなさん元気にお過ごしですか?

 

うつしきは8月いっぱい夏休み。
懸命に声を張るセミの合唱や、じりじりとした暑さ。
毎年おなじようでどこか違う。

 

大学生の頃、いくつかのバイトの掛け持ちの中
少しの休みが出来ると行きたい花屋や植物に纏わる場所のリストから選んで
ふらっと遠くへ出掛けるのが好きだった。

 

大抵は夜行バスとか電車とかわずかなお金で行ける方法で。
辺鄙な場所に行くときの途方もない乗継時間も、普段後回しにしていた本を読むにはもってこいで、
そんな時間もまるごと好きだった。

辿りついた場所では必ずお花を束ねてもらった。
持って帰ることが出来なくても偶然出会って親しくなった方に受け取ってもらうことにして
自分が見たことがある植物も、別の人や空間を介するとまるで違った存在になるのを知った。
ぼんやりと疲れた身体と高揚した心で慌ただしく帰ってまた日常を過ごす。
今までとおなじようでいて薄ーい学びの層をひとつ重ねて。

 

その後あっという間にインターネットが普及して、
足を運ばなくてもなんとなしに見ることはできるようになった。
それでも実際にその場に身を置いて得たものには敵わない。
匂いや肌触り、そこに流れている見えない空気感も。

うつしきにいると、縁のある方々を通してお花を届けてもらうことがある。
用意してくれた方の想いに乗って、託された植物たちが長い旅を経てこの場所にやってきてくれる。
大事に保護された包みをひらきながらいつも、よう来たねえとじんわりする。
気になっていた遠くのお花屋さん。
自らの手で育て摘んでもらった花束。
拵えてくれた人の手でしか起こせない一瞬が箱をひらくと拡がる手品の様。

 

食べることや着ることが毎おなじでないように、
いつも懇意にしているお花屋さんだけでなく、その時々で変えてみるのもまた愉しい。

 

さて今日はどんな一日にしましょうか。

 
小西 紗生