うつしき

うつしき

対 話 - 川井 有紗 -

川井 有紗
1982年 広島県生まれ。現在は和歌山県紀美野町の山の上で豊かな自然の中で暮らし、活動中。自然の中に有る美しさやエネルギーを、感じるままに身体を通して装身具やオブジェ、自らの声を使うなど、表現の垣根にとらわれず形にしている。2021年5月、山の上に「ens」 をオープン。様々な表現者と共に世界の美しさを伝えていく。
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お守りのように

自然の造形美を切り取って形にした、可憐でありながら、存在感あるアクセサリー作品。「自然物はそのままで完璧に美しい。だから、その美しさを伝えたいし、活かしたものを作りたいと思っています」。

この世界の美しさを伝える

和歌山県紀美野町にあるギャラリー『ens』。一番美しく、この地の広がっている景色を見せたいという想いから、長方形ではなく、角度をつけたアール状の特徴的な古い窓。壁は白壁だけだと主張が強いため、土を少し混ぜ、作品が映えるように配慮。床の一枚一枚のタイル材をはじめ、どの箇所を切り取っても、細部に美意識が宿っている。

植物たちの生命をひとつひとつ写し取っていく

「絵や飾りがなくても人は生きていけるけど、あったら心は豊かになる。私にとってなくてはならないものだったから、その力を信じています」 。音楽家 青木隼人さんの演奏に合わせ、有紗さんがライブペインティングを行う催しをはじめ、前回の展示風景を記録した映像。

ただ在るだけで


有紗さんが植物を素材にしたアクセサリーを作り始めたのは会社員を辞める頃でした。

「どんどんスピード感が増していって忙しくなり、本当の自分とやっていることの間にギャップを感じ始めて、まったく手が動かなくなったんです」。

忙しさのなかで自分を見失いそうになり、自分の時間との向き合い方を見つめ直す日々の中で、植物や自然物の美しさに涙したと言います。

「ただそこに在るだけで美しい。なんて素晴らしいんだろうと思って。だから、その美しさをたくさんの人に知って欲しいし、身につけることでそんな存在に近づけるような気がしたんです」。

この世界で、自分が生きるために必要な安心をくれるお守りのような存在。

“自然物を身につけることで、少しは自分らしくいられるのではないか”

有紗さんのアクセサリー制作は自然な感情の流れで始まります。

退職後、植物の美しさや力に惹かれ、毎日手にとり触る中で、気づけば沢山の作品が生まれていた。

半年後には京都のギャラリーで初めての個展を行います。

個展は反響を呼び、そうして創作活動を続けるうちに、同じ思いを持つ人々の共感を呼び、各地で展覧会を開くようまでになりました。

純度が高いこと


各県のギャラリーオーナーからも声がかかるようになり、ある時期には2年先の展示の予定が埋まっている多忙な日々が続きました。

「2年前の私と今の私が作るものは、やっぱり変わるなって思っていて。少し先の予定が埋まった中で制作する日々に、ちょっとした葛藤がありました」。

有紗さんにとっての制作の原点は、植物がありのまま生きるように、今を生きる純粋な気持ちでただ生きてみたい、という想い。

「私の中で大切にしたいのが “純度が高い” ということ。仕事としてこなすというより、この瞬間にしか生まれない美しさを味わって生きていきたいという想いがあります。いまこうして暮らしていく中で、自然と形になったり、表現に変わったりすることをやるのが、私はすごく純度が高くて美しいことなんじゃないかなって思っています」。

祈りのようなものから


和歌山県紀美野町の、山の上。

有紗さんは、2020年より少しずつ土地を拓き、夫の絵描き・笑達さんとともに、”いろどり山” と名付けた山で暮らしています。

2021年5月には『ens』をオープン。有紗さんが人生を通じて触れた、様々な生き方や思想の中で生まれる人間や作品、心躍るもの、こと、体験を通して、この世界の美しさを伝えるギャラリーです。

「初めからイメージしていたのは、田舎の小さな教会。ヨーロッパなど旅行に行った際にいつも心を掴まれていたのは、田舎町の小さな教会でした。どんな素晴らしい教会建築よりも、その土地の人々の祈りの心が宿る小さな教会に、いつも心惹かれていました。キリスト教徒ではありませんが、自然と手を結び祈りたくなった、そんな記憶があります。この場所は教会ではありませんが、誰かの心にささやかでも、美しい何かを感じて貰える場所であれればと考えています」。

表現というより現象


うつしきにて、9月18日 (土)より開催される『笑達 川井有紗 夫婦展 “たまきはる”』。

26日(日)18時30分からは、有紗さんによる『唄の会』を開催予定です。

約2年前、親交のある音楽家 haruka nakamuraとの共演をきっかけに歌う事や詩の朗読を始め、”いろどり山” で暮らすようになってからオリジナル曲が生まれ、その頃ギターでの演奏をはじめたその音楽は、この土地で生きる想いや風土や暮らしから自然に生まれたもの。

アクセサリー制作やギャラリーの運営、アートや音楽活動など、傍から見れば何でもできる多才な活動ぶり。有紗さんの中では一貫して、言葉の定義に縛られることなく、あくまで自然な流れで生まれたできごとの連続です。

「私にとって何か作り出すことは、社会に自分の居場所が見当たらなかった時期から、この世界で生きて行く上で必要なことでした。表現しているというより、現象ということに近い気がしています。現象は、自然に起こることだと思うんです。アクセサリー制作も職業にしようと思って始めたわけではなく、自分のために制作を始めて、それがたまたま生きる糧になっていった。生きていると変化していく過程の中で、自然と浮かんでくる自分にとっての現象を、そのまま素直に影響を受けて過ごしていきたいんです。これからも、もっと感覚的に、自分の身体の反応をそのまま臆することなく、形にできたらいいなって思っています」。

[ 演奏会情報 ]

川井 有紗 唄の会
 
日程
9月26日(日)
 
開場
18時
 
開演
18時30分
 
金額
2000円
 
ご予約は営業時間中に電話もしくはメールにてお受けしていますのでご気軽にご連絡ください

今回の対話を終えて取材や撮影を終えた直後に、偶然にも虹色に染まる彩雲がみれました。この地からの眺めは、自然の美しさと抗うことのできない力を感じます。そんな暮らしの中から、自然に生まれた音楽と詩。演奏会にはギターの音色と、有紗さんが今まで書き留めていた、”声にならない言葉たち” の朗読が、うつしきの空間で共鳴します。演奏会の景色は、一緒に空間を過ごしている人達の気配や込み上がる感情含め、目の前で体感しないと伝わらないものばかり。いまからどのような演奏会になるか待ち遠しいです。
聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

笑達 川井有紗 夫婦展
たまきはる
 
日程
2021年9月18日(土) – 9月26日(日)
期間中休みなし
 
作家在廊日
18,19日 / 25,26日
 
時間
13:00-18:00