うつしき

うつしき

対 話 - Comptoir Coin -

「学生の新歓とかで飲むワインが苦手でした」。
 
そう振り返るのは、東京・蔵前にジャンルレスの洋食と自然派ワインが愉しめるカウンターバル『Comptoir Coin(コントワール・クアン)』を営む店主の丸井裕介さん。
 
ある一杯のワインが、丸井さんの人生を変えるきっかけになります。
 
ワイン嫌いがワイン好きになり、お店をオープンするまでに至った原動力はどこからきたのでしょうか。

Comptoir Coin (コントワール・クアン)
2015年9月に東京・蔵前に開業した、和洋様々なジャンルで修行を経験した店主の丸井裕介さんが織りなす、ジャンルレスの洋食と自然派ワインが愉しめるカウンターバル。
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Comptoir Coin

『コントワール』というのはカウンターのあるお店の総称。『クアン』はフランス語で『たまり場』という意味。自然派ワインに合うというコンセプトで、ジャンルレスの食事が愉しめるカウンターバル。キッチンを囲むカウンター席は、料理のライブ感が感じられる。

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自然派ワインがつなぐ、ジャンルレスなメニュー

メニュー数は、前菜、ピザとパスタ、メイン、デザートで常時30~40種類。

1000年後も残る器

店内で提供される器には永瀬二郎さんのアルミのお皿が使用される。「二郎のアルミのお皿はデザイン性に加え、割れないっていうことに信頼を置いています。あと残るものとして、古物とかは何十年単位で保存してたりするけど、二郎のお皿はもっと長いスパンでいける気がしていますね。1000年前のアルミの器が経年変化して、しかも使えるということは魅力的で、死後の楽しみがあります」。
» 永瀬二郎 作品一覧

Washed plate series

『Comptoir Coin』で使用された永瀬二郎さんのお皿。純アルミという柔らかいアルミに無機質な加工と仕上げを行い、食器同士のスレや油染み、エッジの凹み等が目立ちやすい器でもある。『Washed plate series “洗った皿シリーズ”』は、お店で使ったアルミの器が、食洗機との相性で激しく色合いが変化していたというところから名付けられた。

お食事会

7月24日より開催した『永瀬 二郎 展』。展示期間中には二郎さんの器を用いて、喫茶室で開催された『Comptoir Coin』によるお食事会を開催。初対面同士でも、美味しい料理を目の前に会話が弾むのはお食事会ならではの醍醐味。

土建業から料理人へ


料理への関心を持つまでは、学校の先生や橋を施工する土建業の仕事に携わっていた丸井さん。

東日本大震災を機に、食というものに風評被害が出始め、今まで当たり前のものに対して考えるようになり、それまで働いていた土建業を辞職。身体1つで始められ、経験が結果になる仕事を模索した結果、行き着いた答えは飲食業でした。

「自身へのレスポンスの速度が合う仕事という視点から、今までの仕事は、反応までの期間が長いなと感じていました。それと比べて飲食業は反応が早い。例えば『あ!美味しい』って食べた瞬間に反応が見えます」。
なるべく短期間の間に、1人で店を回せる技術と経験を身に付けるため、中華、イタリアン、ビストロ、餃子屋、京料理、居酒屋と、あらゆる業態を昼夜掛け持ちで修業した丸井さん。

自然派ワインとの出会い


イタリアンレストランで勤務していた時期、あるバーで飲んだ自然派ワインとの出会いが丸井さんの人生の大きなターニングポイントになります。

「20代前半の記憶から、ワインは美味しくないというイメージが残っていて、ずっと避けていました。自然派ワインを初めて飲んだ時に、『おお、めっちゃぶどうの味がする』と、とにかく美味しくて衝撃を受けました。自分が美味しいと思えるものはちゃんと自己投資しようと、当時お金を100万以上借りて、自然派ワインをひたすら飲んで学んでいましたね」。
ベーカリー併設のバーでは、ホテル出身の叩き上げの料理人から料理の技術を学び、保存の技術も習得。大手チェーン店では、新店の開業を任されたことで経営のノウハウも身に付ける。そして、2015年に『Comptoir Coin』を開店。

記録より記憶に残るものを


民家の1階を改造したお店は、外装から内装までのほとんどを自作し、左官も自らの手で行い改装。

アートや古道具など飾られた空間に、ジャンルレスの洋食と自然派ワインの組み合わせは評判を呼び、都内、都外を問わず、多くの方が足繁く通います。

お客さんの中にはワインが苦手という方も、丸井さんのお店に美味しいワインを求めて尋ねてきます。

「 “ワイン飲めないんです” ってお客さんが何人か来たんです。そういう人に自然派ワインを提供してみたら『めっちゃ美味しい』って飲んでくれて、今では近隣のお店に飲み歩くようになっちゃって。そういう人が増えてくれるのは嬉しいです。

お客さんの反応という意味では、飲食店を営んでいて、一番自分の中で心地よい反応でした。美味しいお店は味わいとして記録に残りやすいのですが、体験、経験として記憶に残らない可能性もありますよね。お客さんと自然派ワインを通じて、嫌いなものが好きになったり、心に残るきっかけを与えるような、そんな場でこれからもあり続けたいです」。

根を張り、橋を架ける

さらに丸井さんのワインが好きという想いは、形として表現されていきます。

2021年には、ナチュラルワインショップ「酒室- Centoux -」をオープン。

きっかけはコロナ禍での緊急事態宣言の発令。何が正しい情報なのかわからない状況の中、丸井さんは自分自身と向き合う時間で、あることを決意します。

「アルコールに対してレストランの営業条件は厳しい中、ワインに救われてるから助けたいってなった時、ワインショップを作ると決めました。その場所で有料試飲を行い、気に入ればお客さんは購入できる。自然派ワインの生産から販売までの流通が止まらない状況を作っていきたいと思っています。これからも自分で飲んで美味しいって思う自然派ワインを取り扱っていきたいです」。

「自分で飲んで美味しいって思わないものは仕入れない。ビジネスとしては売れるかもしれないけど、気持ちは伝わらないし、ワインを飲んだ人への感動には繋がらないから」。

今回の対話を終えてまだ日本では認知度や流通が少ない自然派ワインの世界。自然派ワインの流通を増やしたいと、丸井さんは店舗だけではなくオンラインでの販売も視野に入れて動いています。そこにある想いは、苦手だと思い込んでいたワインが、酸化防止剤などの添加物が入ったワインだけの選択肢で選んでいた事実があるから。「ワイン苦手と思う人ほど、自然派ワインを一度飲んでみて頂きたいです」。そこにあるのは、ワイン苦手と決めた世界から抜け出した、まだ見ぬ自然派ワインとの出会いが広がっているかもしれません。[永瀬 二郎インタビュー記事 前編]


聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

永瀬 二郎 展
日程
2021年7月24日(土) – 8月1日(日)
期間中休みなし
作家在廊日
24,25,26日 / 30,31,1 日
時間
13:00-18:00

Comptoir Coin お食事会
7/24(土)・25日(日)
12時開始
¥8,000
すべて永瀬二郎のアルミ作品で提供される8品のコース料理