うつしき

対 話  - cite’ -

モノがあふれた世界で、人は何をきっかけにモノを選んでいくのか。
 
「心に響く物との出会いは、一期一会であるなといつも感じます。物の奥にある多層の世界、かつてあった素朴な営みの尊さと美しさ、その一端を無心で発掘しているときこの上なく幸せだと感じます」。
 
そう語るのは、広島市にあるギャラリー「cite’」店主 鈴木さん。2000年から2014年にかけてヨーロッパで暮らし、写真家として活動しながら各地を巡り美術・建築の観察と古物の蒐集を続けてきました。
 

芸術に対しての造形の深さ、興味が尽きないと語る古い物に対する愛。知識や既成概念にとらわれず、物と向き合う姿勢はどのように育まれたのか。展示会初日に話を伺いました。

過去と現在が交差する街


“心揺さぶられるものに従う”。鈴木さんの行動にはこの考えが一貫しています。古い物が好きでものづくりに興味を抱いていた学生時代。高校を卒業後、東京の大学に進学します。長期休暇中に友人と巡ったヨーロッパ旅行がいまに繋がる出来事へ。観光地や店舗を巡るのではなく、肌感覚を頼りにひたすら街並みを歩いたといいます。
 
「とにかく空気が気持ちよかった。古くからの文化が脈々と感じられ、その中で生き生きと人が暮らす環境に一度身をおきたい」。帰国後、そう思い立った鈴木さんは日本から移住する準備を進めます。大学を辞め、パリにある写真や美術を専攻できる大学に進学。


 
当時、言葉もままならない中、生活する上で苦労はなかったのだろうか。「苦労以上に楽しいことや学びたいことも多く、帰国したいと思ったことはほとんどなかったです」。平日は美術を学び、週末には骨董市、休みはヨーロッパ各地を見歩く日々。卒業後は写真家として独立し、約14年間程ヨーロッパの地で暮らしました。その過程で見聞きした景色、体験した様々なことから、改めて日本を傍観することになり、そのすべてが現在の活動に繋がっているといいます。

探究心の向かうところ


そして帰国後、広島に移り「cite’」をオープン。この場所は、以前属していた世界で疑問に感じていたこと、より身近な部分で社会と関わりたいという長年の想いの一つの形だと言います。「表層の美しさ以上に背景が美しいと感じるものを大切に」、古物も現代作家の作品も、衣服も造形物も隔てることなく、暮らしや生活にまつわるものや様々な分野の作り手の活動を伝えています。
 
「この歳月の中で関わった作り手さんとの時間が積み重なり、年々内容が深くなっていくことが楽しいです」。互いに惹かれ合う作家と関係を深め、企画展ごとに作りあげる展示の風景。自らの五感を通して得た感触は、鈴木さんが届ける言葉に温度をのせます。

そこにあるだけで


今回うつしきでは「古道具 古家具展」を開催。インドや日本で見つけた古物と一緒に、鈴木さんが長年ヨーロッパで収集した陶器やガラス、木の道具などの古物が展示されました。西洋東洋、ジャンルの垣根を越え、交差する古物達の景色は圧巻といえる光景。
 
「古い物から感じる、かつての暮らしや信仰、人や文化の往き来、痕跡に積もる時間、装飾や形に宿る宇宙の法則のようなもの。移動と交差を繰り返し、何かの因果でそれぞれ世界が出来上がって来たのかと想像すると興味が尽きません。それが今と繋がる感覚や、現代に作られるものと融合したりすることに一番の喜びを感じます」。
 
古い物を使うという事は、今を生きながら遠くへと旅をすることなのかもしれません。時間軸に想像を膨らませ、一遍の物語として現実を読むような。そうする事で、日常がより深く愉しい時間へと変わるように。

好きなものを追いかけて

「興味の赴くまま動き回るといつもはっとする出会いに恵まれます」と話す鈴木さん。他人の決めた価値観ではなく、内から湧き出でる感覚に耳を澄ませること。それは時代や流行に左右されることなく、自分の心が揺らぐ瞬間を大切にすることだと教えてくれます。
 
「20年来好きな物はほぼ変わらず、年々好きな物や領域が増えるにしたがい、世界が広がりつつもまだまだ底がつかめません。古くて新しい感覚や歴史、世界との出会いや発見の喜び。底がつかめないということはなんと幸せなことかと感じています」。
 
鈴木さんの純真で尽きない探究心は、これからも変わらずにずっと続いていくのだろう。

今回の対話を終えて鈴木さんのこれまでの軌跡を辿ると、人生で起こるどの出来事も、いまの活動に繋がっていると実感します。自分の価値観で決めることは、自分自身が心から納得できる答えが出てくるまで問いかけ続けること。日々過ごす中で、身の回りに起こる些細な出来事。そのひとつひとつをできるだけていねいに受け止め、歩み続けたい。

聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

古道具 古家具展

年始の恒例となったこの企画
今回はインドや日本で見つけた古物と一緒に
広島にあるcite’というギャラリー店主 鈴木良氏がフランスで集めてきた古物と一緒に並びます
15年近く住んだフランスという地で少しずつセレクトされた古物
古物への愛と知識溢れる彼の眼によって選ばれたものたち
西洋と東洋、原始と文明が交差するようなジャンルレスなものが並ぶ展示となればと願う
人にとってはガラクタであり必要のないものかもしれない古物
そこに価値を見出す古道具という時間を経た不思議な道具たち
物の価値というのは一体誰が決めるのか
そこに美しさを見出せれば
この一点に尽きるだろうと僕は考える
他人の決めた価値観ではなく自分の価値観でものを決める
純粋な曇りなき眼で選んでほしい