大分県杵築市山香町にアトリエを構え、印刷物を中心としたデザインをはじめ、紙を使った造形制作を行う『山香デザイン室』の小野友寛さん。
東京・大分市内で暮らしていた時期を経て、古き日本の風景が残る山香に移り住み、10年目。
自分の好きなものや世界観を体現するその姿勢について伺いました。
グラフィックデザイナーであり作家という顔を持つ小野さん。
一般的にグラフィックデザインの業務が、デザイン、印刷、製本と分業が進んでいる中、小野さんは自らの手でデザインから印刷、製本まで手掛けることも多々あります。
活版印刷機などの機材を揃えながら、様々な印刷技法を自らの手で試す日々。
工数が増えるにもかかわらず、印刷から製本まで手掛けているのはなぜでしょうか。
「理想とする紙の質感など表現したい際に、従来の印刷方法だと、どうしても表現できない場面があります。そうであるなら、自分でやるしかない。手の届く範囲から活版印刷機などの設備を揃えて、実験をしながら可能性を広げています。自分で取り組んだほうが制約に縛られず、細かいところまで表現できると思っています」。
“生活の基本がしっかりしてないといいものができない”
多忙な日々を過ごした東京時代に、そんなことを想ったといいいます。
日々の暮らしを大事にして、デザインや作品作りに専念したいという想いから、24歳のとき大分市に戻り独立。
4年間程大分市内でグラフィックデザインの業務を行います。
その頃に手掛けていた商業的なグラフィックデザインの仕事に違和感を感じ、自分の中で大事にしていることや感覚の近い人たちのデザインに携わっていきたいと思い、山香町に移り住みます。
――独立してから10年以上
全国各地のアーティストやギャラリーの方々から、紙を用いて、誰もやっていないことを表現したいという相談が途絶えない小野さん。
そんな期待と緊張が高まる依頼に対して、どのような姿勢で応えているのでしょうか。
「デザインの仕事も作品も同じような感覚で作らせて頂いています。手仕事の痕跡や削ぎ落とされた余白があるもの。無作為な揺らぎや傾き、時間の蓄積が残っている作品に感動することが多いので、そういうことを自分が作ったものにも感じてもらえたら嬉しいなあと思い、日々ものづくりと向き合っています」。
昔から ”抽象的なもの” に惹かれると話す小野さん。
「ある時、ギリシャに行ったことがあります。その時の光景で、壁にたくさんシールが貼られて、それを剥いだ跡がありました。その壁がすごいカッコよくて。完全に無作為というか、狙ってそうなったわけじゃない美しさを感じました」。
作品を作るときも作為的にならず、自分の想像を越えたものが出来上がることがあり、 それが頭に描いてた以上に良かったりすると、ものづくりの奥深さや魅力に気付かされると言います。
うつしきにて、11月27日 (土) より開催される『山香デザイン室 小野 友寛 展 ”残影” 』。
紙の素材を用いたポスターや器、小物など抽象表現に焦点を当てた作品群をはじめ、10年以上制作を続ける人気のカレンダーシリーズが並びます。
頭だけではなく手を動かしながら、五感を研ぎ澄ますように作品と向き合う日々。
「仕事や暮らしなど、10年前にあの選択をして、やり続けて良かったなと振り返ります。身の回りの自然や山香という場所で暮らしていく中で生まれるもの。この町で暮らしながら見る景色や感じる光など、作品や展示を通じて表現できればなと思っています」。
今回の対話を終えて11月27日の土曜日から、山香デザイン室 小野 友寛 展「残影」が始まります。企画として、小野さんとの縁の深い『TANE』のお食事会も喫茶室で予定しております。残席僅かとなった回もございますので、ご希望の方はお早めにうつしきまでどうぞお尋ねください。
聞き手・文 : 小野 義明
山香デザイン室 小野友寛 展
「残影」
11月27日(土) – 12月5日(日)
期間中休みなし
13時 – 18時
◯12月4日(土)5 日(日)
TANE お食事会
11:00
12:00
13:00
14:00
※予約制
¥3,500
(ベジタリアン料理3品、デザート、ドリンク付き)