『えみおわす』の衣服は、自然素材と丁寧な手仕事を素に作られています。
シンプルで直線に近いパターンでありながらも、様々な場面で長く着てもらえるようにと動きやすく、細部までこだわったデザインや緻密な縫製。
着る人を選ばず、日常を大事にする衣服は、どのような日々の営みから生まれているのでしょうか。
これまでの軌跡を辿ったインタビュー前編に続き、後編では制作過程についてのお話です。
「ものがどんな風に作られているのか。その構造を紐解きながら作った人の辿った思考や工程を想像するのが楽しい」という順子さん。
東京藝術大学では油画を専攻し、2004年に1年間休学。休みの度に様々な国々を旅していた経験から、インドやタイに暮らしながら、独学で手縫いの服を作り始めます。
「教えてもらったわけでも習ったわけでもないんです。自分で作ってみて、その実感のなかで服づくりを覚えていきました。
民族服に惹かれたのは、自分で服を作ろうと思った時に、生地を直線でタッと切って穴が開き、首や腕がでるようになるという工程にすごく感動したことが大きいです」。
着る人をそのまま受け止めてくれるような『えみおわす』の衣服。
日常着としての機能性に加えて、気持ちを底上げしてくれる装いの楽しさを兼ね備えています。
その一着ができるまでの背景には、数々の手間が集約されています。
生地の裁ち方、待ち針や仕付けの一手間、縫い代の処理。動きやすいように脇や股にはマチを入れて、着心地に影響するステッチの幅は狭く、洗濯するとほつれやすいロックミシンは使わない。
さまざまな体形の人に着てもらえるよう、お尻や太もものラインは、1mm単位での調整を繰り返す。
普段着としての心地よさを追求する過程の中、試行錯誤を重ねてきたと想像に難くありません。
身体に馴染む衣服ができるまで、見えない細部は丁寧に作り込まれています。
居心地の良い場所に住むように。安心しておいしいと思える食事をとるように。同じように衣も、自然と気持ち良いと感じるものを身にまとって暮らせるように。
暮らしとものづくりが地続きな『えみおわす』の営み。
東京から岡山の地に越してきて約10年。
タイの村の人々の暮らし方のように、動物に囲まれ自然に寄り添った憧れの生活が日常になってきた中、今後はどのような暮らしを思い描いているのでしょうか。
「畑で野菜を育て、山羊や犬などの動物に囲まれ、気づけば人よりも動物と過ごす時間のほうが長くなっています。動物とともに過ごすことは “いのち” と向き合うことにも繋がり、時には胸に迫りくる場面もあるのですが、もう少し自給自足度を高めて暮らしていきたいなと思っています」。
今回の対話を終えて毎回取材に行く度に、自分の中の理想の家や暮らし像が変化しています。動物に囲まれた順子さん達の暮らしは、どの場面を切り取っても気負うことなく自然体で、暮らしの様子を話す明るい笑顔が、何よりの充実感を物語っています。美意識のある暮らしから生まれる着心地の良い衣服は、人から人へ、今後さらに紡がれていくのだろう。
聞き手・文 : 小野 義明
えみおわす 展
日程
2021年3月20日(土) – 3月28日(日)
※期間中休みなし
作家在廊日
3月20日(土)
時間
13:00-18:00