うつしき

対 話 - 山香デザイン室 小野 友寛 -

大分県杵築市山香町の中心部にある倉庫­を改装し、グラフィックデザインの仕事を手掛ける「山香デザイン室」の小野友寛さん。

「ものづくりと向き合うためには、日々の生活が大切」と語る山香町で過ごす日常の暮らし。
 
前回の対話を経て約二年。移ろいゆく季節の中、どのような体験や想いを経て、展示会に臨んだのだろうか。

一本の線から伝わるもの


大分県で生まれ育ち、幼い頃から絵を描くことが好きな小野さん。

高校生の頃、ハードコア系のバンド音楽のCDジャケットに惹かれ、グラフィックデザイナーになることを決意。卒業後、東京にある美術学校へ進学。デッサンや写植など、デザインの基礎について学びます。卒業後、アパレル会社のグラフィック部門で2年間程勤務。

その合間、作品作りも行っていたといいます。初めての作品は、線画で対象を描くドローイング。緻密なものより、抽象的な絵を好んで描く。線を引くとき、自らの手はその時々の心の有り様を素直に映します。気持ちを整えてから制作を始めること、変わらぬ姿勢で紙と向き合うことを大切にしている。

「さまざまな紙を扱う仕事が多いので、紙に触れてデザインに落とし込んで、素材に対しての知識を身に付けていきました。紙を色々と扱っていく中で、デザインの仕事でする印刷物以外の可能性を紙には感じています。そういうことを作品として作りたいと思っています」。

自分の中で大事にしていることや感覚の近い人たちとともに


多忙な日々を過ごした東京時代。「生活の基本がしっかりしてないといいものができない」。日々の暮らしを大事にして、デザインや作品作りに専念したいという想いから、24歳のとき大分市に戻り独立。

4年間程大分市内でグラフィックデザインの業務を行います。その頃に手掛けていた商業的なグラフィックデザインの仕事に違和感を感じ、自分の中で大事にしていることや感覚の近い人たちのデザインに携わっていきたいと思い、大分県杵築市山香町に移り住みます。

自然環境が作り上げた偶然の産物に魅力や面白さを感じるからこそ、小野さんの視点は印刷にも向けられている。紙に対してより真摯に向き合う環境づくりとして、手の届く範囲から活版印刷機などの設備を取り揃えていきます。

デザイナーと作家


クライアントの意向を汲み取るグラフィックデザイナーであり作家という顔を持つ小野さん。一見、全く異なる取り組み方を想像します。どのように捉えて向き合っているのだろうか。

「グラフィックデザインの仕事も作品も同じような感覚で作らせて頂いています。デザインも作品作りも、手に取ってもらう方に喜んでもらいたいという気持ちは変わらないです。根本のテーマは、身の回りの自然や山香という場所で暮らしていく中で生まれるもの。このまちで暮らしながら見る景色や感じる陽の光など、作品作りに取り入れたくなります」。

昔からそこに在るような


うつしきでは二度目の展示。紙の素材を用いたポスターや器、小物など抽象表現に焦点を当てた作品群が並びました。

今回は初めての試みで、紙を器にする過程で漆を使用。和紙の表面に漆を重ねることで、紙なのに革のようで樹皮のようでもある様相は、見る人によって用途の有無が変わります。

「できあがる作品数は限られますが、紙の選定や印刷や加工は、様々な方にご協力いただきながら制作しています。使用している塗料や紙材も性質が異なり、育った場所や重ねた年月によって、ひとつとして同じ表情の材はありません。その違いに目を凝らし、耳を澄ませて、ものづくりと向き合っています。作り上げた作品は、昔からそこに在るような自然な状態で、手は加えるけれど作為的にならないようにと心がけてます」。

自我を忘れ、紙という素材に身を委ねる飽くなき探究心と時間をかけて向き合う姿勢が、「当たり前」のなかから本質を見出していきます。

暮らしのそばだからこそ

今後も暮らすことを第一に、ある一定のリズムで、デザインの仕事と作品作りを続けていきたいと話す小野さん。

日常の「暮らし」そのものが生きる活力になるような、山香町でのうつろいゆく時間や出来事を見過ごさないように、紙という素材に向き合いながらその時々に身を任せていく。

今回の対話を終えて試行錯誤を繰り返しながら紙という素材に対して実験を行うのは、もっと深く知りたいと思う好奇心を小野さんが強くお持ちだからです。このように好奇心を発揮できる背景には、無理のない日常の「暮らし」があるからだといいます。暮らしの身の回りに起こる小さなモノとコト、そのひとつひとつをできるだけていねいに受け止め、小野さんのものづくりの旅路はこれからも変わらずに続いていくのだろう。

聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

Abstract object

大分県杵築市に在る山香デザイン室
デザイナー小野友寛氏によるうつしきでの二回目の個展
古来より日本人は時の流れの堆積した
詫びたものや錆びたものに抽象的な美しさを見出してきた
物事や表象を 性質・共通性・本質に着目しそれを抽き出して把握する
紙や土、木といった素材を解釈し噛み砕き
それぞれの素材の質感の美しいと感じた部分を作品として昇華する
デザイナーであり作家である二つの側面を持つオタク気質で研究に余念のない
別名山香のガンジー
そんな彼の抽象表現をどうぞお楽しみあれ