“精神に作用する波動” としての衣服、美術、写真、書籍など多様な領域を超え、ひとつの有機的な世界観を表現している『COSMIC WONDER』の世界。
美術作家としても国際的に活躍している主宰の前田征紀さんのこれまでの歩みは、未来の美しい景色を描き、あたらしい時代の精神性や価値観を提示し続けています。
「古代と現代をつなげることに興味がある」
そう語る大きな眼差しと共にある取り組みは、いかなる枠にも収まり切らない総合的な表現活動へと拡がりをみせています。
原始の風景に想いを馳せ、美に彩られた暮らしをする中、いま何を想い、これからの未来を見つめているのでしょうか。
村の入り口まで出迎えてくれた前田さん。竜宮まで向かう坂道をすたすたと歩き、道中にある神社や周囲の茅葺き屋根の風景も相まって、知らないうちに昔話の時代に遡ってしまった感覚になりながら、竜宮の中へ訪ねることに。
前田さんの審美眼によって選ばれた道具や自然布が置かれたまるで茶室のような空間は、背筋がピンと伸びる緊張感を感じていました。
お茶を淹れてくれ、少し緊張が落ち着いたところで、僕は「どうしてこの場所に暮らすことに?」という質問からインタビューを始めました。
「山の近い場所で暮らしたいと、理想の地を求めていろいろな場所を探しましたが、辿り着いたのがこの村でした。表現したい作品と自分の生活の環境を、あわせたいという思いがあって。想像ではなくて、日々の生活そのものから表現に到達できると思っています」。
自然環境に敬意を払いつつ、古代からの暮らしの営みを探る前田さん。この地で暮らし始めていく中で、ある違和感に気づいたと振り返ります。
「周囲の野山を眺める機会が増えて、自然を見る ”解像度” が上がったように思います。そのせいか、スギなどの人工林の多さが気になるようになりました」。
社会が抱える様々な問題は、表面的に現れるものだけを見ていても何も解決しません。
「すべてに背景があると思います。たとえば、なぜ、こんなにもスギを植えてしまったのか。背景を深く知ったり、読みとったりすることは、100年先の未来の景色を考えることにもに繋がります。先人達が歩んできた歴史的な過程を見ず、あるいは見えているのに、表層だけを汲み取る癖をやめることができれば、解像度の高い視点で、世の中を見てゆけるのだと思うのです」。
前田さんは、京都大学のフィールド科学教育研究センターの伊勢武先生とランドスケープデザイナーの西川潤さんに協力を得て、村の人たちと未来の里山の森林風景について考えています。
「具体的なことはこれから考えていく段階になるのですが、まずはこの村で広葉樹林の多いかつての里山を再現できれば、環境を再生する一つの事例になるかもしれません」。
前田さんの眼差しは、古代から続く、普遍的な人間の営みとしてのものづくりに焦点を当てられています。
各地に残された希少な手仕事と、それに呼応し生み出されていく『COSMIC WONDER』の衣服。
その風景は、農作物や工藝品などの手仕事と、自然と共存する脈々と受け継がれてきた知恵や豊かさ、すなわち “創ること” と深く結び付いていたことを思い出させます。
「素材はすべて自然素材、手仕事や工藝のことを大切にしています。伝統的な手仕事の現場に出向き、作品ができるまでの過程や時間軸に触れる度に、人が営む “いのちそのもの” だと感じます。むかしの価値観にもどるというよりも、いまを生きるものとして、新たな価値観でそうしたものを選んでいます。そうした想いを作品を通じて伝えていければなと思うのです」。
今回の対話を終えて前日に『島根県立石見美術館』で開催していた『ノノ かみと布の原郷』の展示を見たこともあり、インタビュー前はかなり緊張していました。前田さんが一つ一つの質問に対して真摯に向き合って答えてくださり、時間が過ぎるのがあっという間な濃密な時間。前田さんの話を伺うと、いま自分が生きているということは、気が遠くなるほどのいのちの重なりの上にあり、そのための人類の歩みを思うと、”いのち” がありとあらゆる様々なものと繋がっていることに思い至ります。5月1日(土)より、うつしきで開催する『COSMIC WONDER うすはなそめ 展』。古の暮らしの背景にある人々の自然観と未来をつなぐような美しい景色を描く『COSMIC WONDER』の活動と、精神を解き放つような心地良い衣服に触れていただける機会となりましたら幸いです。
聞き手・文 : 小野 義明
COSMIC WONDER 展
「うすはなそめ」
麻や絹、有機栽培綿の、COSMIC WONDER “Days of light” の衣をうすはなそめにしました。
うす泥染めは奄美以南に自生する常緑高木の福木を煮出した染料と泥で染める。通常の泥染は車輪梅の染料を使うが、うす泥染では福木の染料を用いた。泥は奄美大島の150万年前の古代地層による鉄分豊富な泥田の泥。福木染め、泥田で泥染め、上流での川濯ぎ、福木染め、泥田で泥染め、水晒し、、と染め作業を繰り返す。染め上がる布の具合により、工程を変えたり、染め重ねる回数が変わるという。泥染めは奄美大島の自然の恵みと長年培われた技法と技術と時間を要する。奄美大島の金井工芸による。
うす藍染めは終わりかけの薄い藍甕で、何度も染め重ねる。藍甕に衣をつけ、水に晒し、天日干し、藍甕にまた衣をつけ、水晒し、、うす藍染は通常の藍染めより、下晒しの処理、染める回数も多く、大変繊細な仕事。うす藍染めをされる三重県の紺屋 仁の仕事は、藍染めの染料であるすくも作りからはじまる。自然栽培で藍を育て、すくも作り、四季を通しての作業を終え、ようやく藍染めができる。紺屋 仁は藍染に正藍染めの技法を用いている。
日程
2021年5月1日(土) – 5月9日(日)
期間中休みなし
時間
13:00-18:00