うつしき

うつしき

対 話 - 笑達・川井 有紗 -

和歌山県紀美野町の、山の上。
 
笑達さん・有紗さん夫婦は、2017年より少しずつ土地を拓き、永住の地として ”いろどり山” と名付けた山で生活しています。
 
山の上に暮らし始め、2人が感じる変化について伺いました。

笑達 (しょうたつ)
1982年 和歌山県生まれ。19歳から京都の路上で似顔絵を描き始め、18年間ひたすらに人とその縁に向き合う。2020年、地元和歌山に移住。土地に息づく風土や霊性に導かれ、絵画を描き始める。
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川井 有紗
1982年 広島県生まれ。現在は和歌山県紀美野町の山の上で豊かな自然の中で暮らし、活動中。自然の中に有る美しさやエネルギーを、感じるままに身体を通して装身具やオブジェ、自らの声を使うなど、表現の垣根にとらわれず形にしている。2021年5月、山の上に「ens」 をオープン。様々な表現者と共に世界の美しさを伝えていく。
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いろどり山からの光景

手入れの行き届いたみかん畑と、山と山の隙間からおよそ10km先の海が見える豊かな土地。ここで感じる景色をそれぞれ制作の糧にする。

土地から受け継ぐもの

土地探しから家を建てるまで3年以上かけて形になった山での暮らし。山には山菜があり、生き物がいる。遠くの海に、夕日が沈む。暗くなれば、星が見える。二人が大切にしていることは、季節を感じられる生きた土壌で、人もほかの動植物と同じく、ただ生きること。そして万物に宿るものに感謝すること。

山に在る命を描く

いろどり山に移り住んでから、笑達さんが描く絵にも変化が生まれる。山での暮らしから見える世界、美しい環境から生まれた草木や土、獣たち、命あるものを作品として映し込む。

作品は生き方そのもの

愛犬みかんと共に、家の周りを1時間ほど散歩することが二人にとって日常の光景。

受け入れてもらい、受け入れる

「私たちが自然をコントロールすることはできません。この地に受け入れてもらい、この地で起きる自然現象を受け入れて、生きていくことだから」 (有紗さん)。台風のような自然が猛威をふるう時、自然に対して抗ったり支配するような強引さではなく、「畏れて、敬う」気持ちで暮らしている。

その地に根を張るということ


以前暮らしていた京都市の頃は、家で過ごす時間は少なく、全国各地を飛び回り似顔絵に取り組んでいた笑達さん。

「京都に暮らしていたときは、ここに一生住むという意識はありませんでした。この地を見つけ、死ぬまで住み続けたいという覚悟が決まった時に、やっと暮らしに根が張れ始めた気がします」。

畑を耕し、野菜やハーブを育て、アトリエの改修を自ら行い、いまはできる限りこの山で暮らす時間を増やしたいと話します。

自然に囲まれた山の上で、日没の時間まで絵と向き合う日々。

「絵を描いている時間そのものが楽しいです」と語るように、笑達さんの暮らしの中心には、絵を描くことが軸にあります。

いろどり山で暮らすようになり、人生の転機となる出来事が起こりました。

それは、似顔絵ではない絵を描くということ。

「いろどり山と名付けた山の上で生きる事を決めてから、幾度となく足を運び、過ごしてきた中で、いままで知らなかった山の美しさはもちろん、自然の怖さも体感しています。夜になると街灯もないので、家の茂みから聴いたことない獣や虫の声などを感じて、得体の知れない夜の怖さを感じる日もあります。それと同時に、草むらに小さく輝く蛍の美しさと満点な星空は、まるで宇宙にいるような光景に遭遇することも。

空は刻々と姿を変え、雨の色、土の匂い、木々の音、風々、目に見えないもの含め、様々な生命の営みの中に存在していて、僕らはこの地に住まわせてもらっている感覚。この山で触れ、見て、聞いて、感じたものと、有紗や友人の「似顔絵以外の絵も描いてみたら」という言葉が合わさり、描き始めました」。

いろどり山の唄

山は唄う
一粒の種から命が生まれ
命は次の命を育み、朽ちた
命は命を糧に、そして生きた

山は唄う
樹も、花も、虫も、鳥も、獣も、人も
全ては、今を生きる一つの命
生まれて、生きて、死ぬ、還る

唄は山々に響く
いろどり山の唄

(土、亜麻仁油、古材)

母の祈り

母は祈る
手に手を重ねて
我が子を思う

(土、亜麻仁油、和紙、簡易額装)

息吹

生命の息吹がはじまる
それぞれの息吹が
そこにもかしこにも

(土、亜麻仁油、油彩、石灰、藍、金粉、和紙、簡易額装)

存在感をそのままに

「いろどり山に暮らし始めてから、精神的に何かがガラッと変わったことはないけれど、自分の中の大きな変化として、声を使った表現で音楽が生まれたことは予想していない出来事でした。」と話すのは有紗さん。

「この地に住んでいると、人工物が少なく、虫の数や植物の数も違うので、自然の力はよりダイレクトに感じています。いままでは手を使って、その素材と対話して形にしてたのですが、土地のエネルギーが強い分、物理的にはどこにも触れていなくても、身体中で触れて、感じたことを音として奏でることができるようになったのは、この地の影響が大きいと思います」。

いろどり山で生えていた猫じゃらしを用いたオブジェ。『イネ科はしなるから加工しやすい』という情報から入らず、まずは手に触れ動かしながら、形にしていく。

9月26日(日)18時30分からは、有紗さんによる『唄の会』を開催予定。演奏会にはギターの音色と、有紗さんが今まで書き留めていた、”声にならない言葉たち” の朗読を、うつしきの空間で披露。

魂が共鳴しあう場

うつしきにて、9月18日 (土)より開催される『笑達 川井有紗 夫婦展 “たまきはる”』。

夫婦として臨む4年半ぶりの展示。どのような気持ちで臨むのでしょうか。

「夫婦になって14年。お互いに影響しあっていまがあります。ふたりでお互いを育んできたと思う。お互いの半分は笑達であるし、有紗です。その中でいろどり山と出会い、作品が生まれています。

いろどり山で暮らしていると、様々な生命の営みが ”生まれて、生きて、繋げて、死ぬ” 。その繰り返しの中で只只存在しています。この地に宿る循環や自然の力、いま僕ら夫婦ができることをうつしきの空間にありのままさらけだして、命が湧き出る感覚が交わる展示にしたいと思っています」。

今回の対話を終えて9月18日の土曜日からうつしきの6周年企画として、笑達×川井有紗 作品展「たまきはる」が始まります。どんな景色がうつしきに広がるのか。どんな世界への入り口となるのか。いまから愉しみで、仕方ありません。周年企画として、笑達さんの似顔絵会、有紗さんの唄の会 、笑達さん有紗さんとの縁の深い『millet』のお食事会も喫茶室で予定しております。残席僅かとなった回もございますので、ご希望の方はお早めにうつしきまでどうぞお尋ねください。

[ インタビュー記事 -笑達- ]

[ インタビュー記事 -川井 有紗- ]


聞き手・文 : 小野 義明

[ 展示会情報 ]

笑達×川井有紗 作品展
「たまきはる」
 
2021年9月18日(土) – 9月26日(日)
13:00-18:00
※期間中休みなし
 
作家在廊予定
18,19日 / 25,26日
 
期間中の催し
 
○笑達 似顔絵会 
9月19日(日)、25日(土)要予約
 
13:00-14:00
14:30-15:30
16:00-17:00
17:30-18:00
 
○millet食事
9月25日(土)、26日(日)
要予約
 
○川井有紗 唄の会 
9月26日(日)
開場 18時
開演 18時30分
金額 2000円
 
各催しのご予約は営業時間中に電話もしくはメールにてお受けしていますのでご気軽にご連絡ください。