うつしき

うつしき

対 話 - Millet 隅岡 樹里 -

人が持つ想像力。
 
喜びも恐れも想像することから生まれています。
 
「想像を豊かにしていくと、自然と想っていることが実現できるんです」。
 
晴れやかな笑顔で隅岡樹里さんはそう語ります。
 
京都・静原の里山エリアで予約制レストラン “Millet” を夫婦で営み、自然になるべく負担をかけない生活をしながら、『自然』と『人』をつなぐワークショップやヴィーガン料理を提供する日々。
 
そこに至るまでの樹里さんのこれまでの歩みは、葛藤や現実と向き合い、豊かな未来を想像することを忘れない、そんな強い想いがありました。

隅岡 樹里
1978年京都大原に産まれ4歳の時から靜原に暮らす。小さな時から自然に恵まれた里山に暮らし、アーティストである両親の影響もありギャラリーのオープニングパティーなどケータリングの依頼やカフェの立ち上げスタッフとして仕事をしながら高校生頃から思い描いていた自宅の一部を改装してカフェを2006年に開く。昨年98歳で亡くなられた石窯パン研究家 竹下晃朗先生と友人と自宅に石窯を作り、パンのワークショップを開催。そこで出会った今のパートナーと自宅で予約制のレストランを営む。
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料理をつくる喜びの原点

店名の『MILLET』は『雑穀』を意味する。「雑穀は一粒植えると実がいっぱいつきます。一粒にエネルギーが込められているからですよね。それは人間も同じで一人ひとりエネルギーを持っていて、自分が感じることを信じれば、可能性があるということを伝えたくて」。

小さな頃から自然豊かな環境で育ち、料理をつくるのが好きだったと話す樹里さん。

「お父さんはピンホールの写真などを撮っていて、京都造形大で教えていました。週末はよくお客さんたちが来てて、本当におもしろい大人達に出会えた子供時代でした。人が集まるおうちだったので、お母さんの手伝いをしながら沢山つくることが多かったんです。みんな、自分が作ったものを喜んで食べてくれて。それがすごい嬉しくて」。

心から楽しめること、それがいまの樹里さんを形作っています。

美しく生きるとはなんだろうか


「自分自身が行き詰まって、『何で生まれてきたんだろう?』っていうところに至った時、地球が喜んでくれる生き方をするってどこかで決めて」。

樹里さんがそう決意したのは、まるで家族みたいに過ごしていたクラスメイト数名の小学校を卒業後、一気に人が増えた多感な中学生の時期。

「学校ではなかなか話が噛み合わないし、がんばってどこかのグループに入ろうとしたけど、一人で過ごす場面がすごく多くて。いじめも体験してそこから次第に、自分に自信が持てなくなって嫌いになってしまい、そのうち摂食障害になってしまいました。

そんな中学時代に、幼なじみの友人のお母さんから、これから先の地球の話しやアセンションのお話しの会に声をかけてもらったり、高校生くらいの時に父親の知り合いのピンホール写真を撮られている方の奥様である鶴田靜さんが書かれたベジタリアンの本をプレゼンしてもらい読んだんです」。

「内容が自分の中ですごくフィットしたんです。”野菜を食べる” ということじゃなくて、自然やいろいろな命とつながりながら、人間が生きる。そういう世界観を知ることができて、『なんかいいなあ』って思ったんです。

食べているものを意識すると、以前より広い視野でまわりが見えるようになって。せっかく料理をつくって喜んでもらえるなら、人の身体にも地球にも負担のないものを作っていけたら幸せだと思う気持ちから、いまの料理へと繋がっていると思います。家族は菜食ではないので、お魚やお肉を使うことをしますが、それは家族というひとつの社会の中で私の学びでもあると感じてます」。
同じ頃に、アレルギーの子どもをもつお母さんに誕生日ケーキを作ってほしいという注文に応えた樹里さん。「試行錯誤してできたケーキは、すごい喜んでもらいました。その子のお母さんがアレルギーの子ども達の会に関わっていて、噂が広まって。いろんなところにケーキを届けに行くと、後から感謝の手紙をもらうようになって。『ああ、本当に良かった』って。辛い時期だったけど、悩んでいた苦しいことが、喜びでどんどんとけていって。そういう人たちに助けれられながら ”これしかない” って思って、料理をつくってきました」。

身体が喜ぶおいしさ

お店をやりたいと思ったのは、高校生の頃。その目標に向け、自然食レストランやカフェスペースで働き、オープン前にはパンを焼くために石窯を作り始める。「パンは作ったことがなかったのですが、自然にやさしい方法で焼きたいと決めていました。石窯を作っている方とご縁ができて、石窯を作り、一緒にパン作りのワークショップを始めました」。

2006年、京都・静原の里山エリアで『Millet』はオープンします。

提供している料理は、卵や乳製品、お肉、砂糖を使っていません。

食材は主に野菜や雑穀。畑で収穫した野菜を中心に、採れないものは新鮮で安全なものを購入。

「 ”おいしい” というのは舌ではなく身体で感じること。素材というひとつの生命を、感じる力が人には備わっていて、それが本当のおいしさなのかと思います。採れたての野菜は生命力が違うから、作っているだけでその生命力をもらえることを感じます」。

豊かな未来を想像することを忘れない

何をするにしても、想像することから始まるという樹里さん。

「お店では、いろんな人のご縁でワークショップをしていて。どれもぜんぶ出会いで動いています。20歳くらいの時にアースマーケットに声をかけてもらって、私は一番年齢も若くていろんな人達に良い刺激をもらってました。その中の家族でお店を出されていた方が、自分達で育てた小麦でチャパティーを焼いたのをくださって。

とっても豊かな生き方だなぁと感じて、『お店をやったら、石窯もつくって、パンも焼きたいな』という思いが湧いてきました。そうしたら近くに石窯でパンを焼いているおじいさんがおられることを知り、その方を尋ねて話しを聞きに行かせてもらい、石窯を作ることが始まりました。

やりたいなと思う事を想像して言葉にしていったら、人に必然と出会い、サポートしてくれる人達が近くに現れて、それがひとつひとつ形になっていってて」。

「人それぞれ、想像できることは違うと思うんです。その想像を豊かにして、魂が喜ぶこと大切にしていけば、未来はきっとみんなの想像でより豊かな世界に変えれるんじゃないかなぁ。太陽の光を浴びて育った野菜を食べて、人間はその光のエネルギーを野菜からもらっていて、光のメッセージを人間が形に変えていく。人間の役割って創造することなのかもしれないなって。

でも一人では想像できないんですよね。いま出会ってるいのちとの中で想像できる素敵な未来を考える。出会いとは、生きる喜びであると思います。出会ってくれるいのちがあるから、想像させてもらえる喜びをもたらし、だから出会いって宝物だと思っていて。生きることってそういう素晴らしい世界を想像して、作っていく事なのかなぁと思うんです」。
樹里さんが先生をつとめた2021年5月に開催された『学びの場 第2回目』。「生きている限りずっと人は学び続けていくんだと感じます」と、その時の想いを綴った内容は ”楽学” よりご覧頂けます。

今回の対話を終えて最近は荒れた土地から、ハーブの花壇『スパイラルガーデン』を作りはじめた樹里さん。それは子どもたちに、いまある景色を繋いでいきたいという想いから。「豊かなことって、何かを持つとか、何か地位を目指すとか、そういうことじゃないと思うんです。この地球の存在がすごいもので、そのことを感じられることが喜びであり、豊かなことだと思います。想い描ける世界は人それぞれ違うと思うけど、その想像を大事にして、形にすることが、その人の役割なんと違うかな」。いまを生きている僕たちは次の世代にむけて、どんな暮らしを、環境を、未来を想像していくでしょうか。
聞き手・文 : 小野 義明

[ 学びの場 概要 ]

学びの場 第2回目
プレートランチ作り スープ・パン付き
 
日程
2021年5月22日(土) – 5月23日(日)